研究実績の概要 |
本研究はキラルなラセン構造に着目して,小分子,オリゴマー分子,分子会合体,分子集合体の順に物質階層ボトムアップを行う合成方法論と不均一溶液系における動的機能の探索を目的とした.ラセン物質の新しい構造と機能が解明されるとともに,分子レベルとバルクレベル物質を関連させる新しい学術分野と機能発現の開拓を期待して以下の成果をあげた. 新規なヘリセン誘導体の合成法を開発し酵素阻害活性を示す化合物を見出した.また,1,12-ジメチル基のラジカル修飾反応を開発して,ヘテロ原子官能基を導入することに成功した.併せて新規構造の有機ヘテロ元素化合物を合成するための遷移金属触媒反応を開発した. ヘリセンを連結した光学活性オリゴマー化合物を新たに設計合成して,ヘテロ二重ラセン形成が溶液と固体表面の界面で起こることを示した.また,ヘテロ二重ラセン形成には自己触媒による増幅過程が含まれるので,複雑な反応現象を与えることを示した.なお,ラセミ体のヘテロ二重ラセン形成において,キラル対称性の破れを発現した.微細な不斉の摂動によって一方の鏡像体ヘテロ二重ラセンの生成が加速されると説明した. ヘリセンオリゴマーの両端部にポリエーテル親水性基或いは長鎖アルキル基を導入したオリゴマーを合成して二重ラセン形成について調べた.親水性化合物は水系溶媒中で二重ラセンを形成し,逆熱応答を示した.また,長鎖アルキル基を有する化合物はヘテロ二重ラセン形成において熱的8字ヒステリシスを示した. 両末端に長鎖アルキル基を有する化合物はヘテロ二重ラセン会合体の自己組織化によってリオトロピック液晶ゲルを形成した.ここから溶媒を取り除くとセンチメートル領域で均一に異方性を示すフィルムを与えた. 以上を総括して,ラセン物質で有機小分子,二重ラセン会合体及び分子集合体レベルの現象が相互に関係しながら起こる現象と原理を整理してまとめた.
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