研究課題/領域番号 |
17H03051
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
平野 雅文 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70251585)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 共役テトラエン / 反応機構 / 共役トリエン / 内部側鎖のない共役ポリエン / ペンタセン / 有機半導体物質 |
研究実績の概要 |
H29年度の研究では、ブタジエンと内部アルキン2当量との触媒反応により共役テトラエンを位置および立体選択的に合成するとともに、触媒上でブタジエンがどのように変換されていくかをNMRにより観測した。この成果はアメリカ化学会Organometallics誌に発表し、H30年2月のMost Read Papersにも選定された。また、この反応は共役ポリエンの合成に広く知られている化学量論的なWittig反応の代替的な触媒反応となる可能性を秘めており、読売新聞YOMIURI ON-LINE(H30年1月10日版)および日経産業新聞(H30年1月19日版)に掲載されるとともに、一般雑誌である月刊「化学」(化学同人)5月号にも寄稿依頼があり、掲載される予定である。 また、本研究では、末端アルキンを用いた場合には複雑な反応となるため内部アルキンのみに適用可能であり、このため生成物である共役トリエンや共役テトラエンには内部に側鎖が導入されてしまう。しかし、H29年度の研究ではトリメチルシリル(TMS)基を有する内部アルキンを用いた時にTMS基がポリエン内部に位置するように反応し、テトラブチルアンモニウムフルオリドとの反応によりプロト脱シリル化に成功した。 本反応を応用し、ペンタセン の6,13位に共役トリエニル基を直接導入することに成功し、6,13位に共役トリエニル基を有するペンタセン の粗生成物を得た。無置換のペンタセン は溶液中ではすみやかに空気と反応して分解されるが、このπ共役型ペンタセン は驚くべきことに塩化メチレン溶液中で空気中で1ヶ月以上安定であった。しかし、空気に安定であるため空気中でシリカゲル薄層クロマトグラフィーにより精製しようとしたところシリカゲル上では分解してしまい、精製には至らず、H30年度に再度チャレンジする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績概要に記したようにH29年度には「共役テトラエン」の触媒的合成を行い、内部アルキンに限定されるものの比較的適用範囲の広い反応であった。この成果をアメリカ化学会Organometallics誌に論文発表を行い2018年2月にMost Read Papersとなったこと、新聞報道や一般科学誌に取り上げられたことから、専門家や一般からも高く評価されていると考えている。 また、本反応は内部アルキンにしか適用できないが、シリルアルキンと共役ジエンの反応が位置選択的に進行することを明らかとし、反応後にプロト脱シリル化してシリル基を除去することにも成功しており、側鎖のない共役ポリエンの合成にも一定の道筋がたてられた。 さらに予備的な結果ではあるが、有機半導体物質の合成にも着手している。有機半導体物質には、高分子であるπ共役化合物と縮環芳香族の2系統が知られているがそれぞれに短所がある。今回合成したπ共役鎖を持つペンタセン は、これらの境界領域に位置し、これらの欠点を補う有機半導体物質の新領域となる可能性を秘めている。現在のところ、空気に不安定なペンタセン が溶液中でも1ヶ月以上安定であるなどの特徴が確認されている。 全体的にはH29年度の研究において、初年度の目標を大きく超える成果が得られており、当初の計画以上に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、π共役系としては共役テトラエンまで得られているが、我々の反応は、内部アルキンと共役ジエンの反応により共役トリエンが生成する反応である。H30年度には非対称内部アルキンを用いて共役ポリエンを合成し、その位置選択性に関する知見を得る。 さらに一般的な共役ポリエンの合成とするためにアルキニルボレートと共役ジエンの反応により共役トリエニルボレートを合成する触媒反応を開発し、鈴木・宮浦カップリングや溝呂木・Heck反応により長鎖共役ポリエン合成に展開する。具体的には例えば本触媒反応により共役トリエニルボレートと共役トリエニルハライドを合成し、これらの鈴木・宮浦カップリングにより、共役ヘキサエンの合成を行う。 またH29年度にはシリルアルキンが反応することを明らかとしており、プロト脱シリル化によりほぼ立体を保持したまま内部シリル基をプロトンに変換できることを示した。この反応をさらに展開し、内部側鎖のない共役ポリエンの合成方法を確立する。 ペンタセン の6,13位にπ共役鎖を有するπ共役ペンタセン は、我々が開発した6,13-ジ(1-ヘキシニル)ペンタセン とペンタジエン酸メチルの直接反応により収率50%程度で合成できることがH29年度に明らかとなった。しかし、原料である6,13-ジ(1-ヘキシニル)ペンタセン の収率が6%と低いためにこの収率の改善を行い、π共役ペンタセン を合成し、有機半導体基礎特性を測定し、従来のペンタセン やTIPS基などのアルキニル基が6,13-位に導入されたペンタセン との物性の比較を行う。物性測定には数百mgの化合物が必要であるため、H30年度上期には大量合成のための反応最適化から着手する。また、この化合物は溶液中では空気に安定であるが、シリカゲル上では空気中で分解するため、今後は精製の段階は不活性ガス雰囲気中で行う。
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