研究課題/領域番号 |
17H03051
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
平野 雅文 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70251585)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 共役ポリエン / 電子移動 / 酸化還元特性 / 合成ビルディングブロック |
研究実績の概要 |
令和2年度の研究では研究計画に基づき、有機半導体を志向した分子性π共役型芳香族化合物の合成をはじめとした研究を行った。はじめに、ポリインを用いた電子移動に関する研究は多く行われている一方で、ポリエンは光合成などにおける電子伝達系に含まれているにもかかわらず、これまで研究例が限定的であった。そのため本反応により合成できる共役トリエン構造を利用して、酸化還元活性なフェロセニル基と各種芳香族が共役トリエン構造で架橋された分子を各種合成し、その電子特性を紫外可視吸収スペクトル、サイクリックボルタンメトリーおよびTD DFT計算により評価した。フェロセンからの電子移動により共役トリエンを介してアクセプターとなる末端芳香族置換基に伝達されることが明らかとなった。これらの成果はNew Journal of Chemistry誌に発表した。また、ヘテロアセンとしてベンゾジベンゾジフランに各種π共役置換基を導入した新規化合物を合成し、有機トランジスタおよび有機発光材料にむけた基礎的測定を行った。トランジスタ特性についてはおそらく安定性が不十分なために確認できなかったが、これらの化合物は蛍光発光が観測され、その特性を評価し、令和3年度に評価を継続する。 合成したポリエン構造の効率的な導入方法としてスズ置換基を有する共役ポリエンの合成に成功し、構造導入が可能なことを実証した。また一部のホウ素化合物については共役トリエン構造のビルディングブロックとして有効であることが実証され、科学技術振興機構の支援により国際特許化ならびに各国移行が決定された。また、これらの有機ホウ素化合物は、天然物の合成にも有効であり、本方法を用いたウミウシの警報フェロモンであるNavenone Bの合成に成功しており、近く論文発表を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は5年間の研究における4年度目の研究であるが、内部アルキンと共役ジエンの反応による共役ポリエンの触媒的合成に着手し、(1)直截的π共役拡張反応による共役ポリエン分子の合成、(2)非対称内部アルキンを用いた位置選択性制御、(3)側鎖のない共役ポリエンの合成、(4)反応性ポリエン分子の合成、および(5)有機半導体を志向した分子性π共役芳香族化合物の合成と物性評価の5項目について研究を展開している。 これまですべての課題について研究を実施しており、(1)から(4)については当初計画を超える成果が得られた。 (5)については各種合成には成功し、半導体特性についてはおそらく安定性の問題のために明確な特性を確認できていないが、有機発光材料としての特性を評価中である。 これらの成果は、現在印刷中の論文を含めて10報の論文を発表し、3件の新聞報道がなされ、一般向け科学雑誌「化学」および企業向け科学雑誌「化学工業」への執筆依頼、科学技術振興機構による国際特許支援に2件が採択されている。また第102回カナダ化学会における招待講演をはじめとする26件の国内外学会発表、国際会議での2件のポスター賞、本研究に関して南方科技大(中国・深セン)によるレクチャーシップアワード、所属機関より研究に関する学長賞を受賞している。また、アメリカ化学会のACS Catalysis誌より本研究課題に関する総説の執筆に招待され、発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度においては新型コロナウイルスの感染拡大のために、学会活動や論文発表などが限られてしまったが、十分な成果は得られているため、令和3年度は最終年度であることもあり、関連する論文発表、学会発表を成果発表として積極的に行うことを計画している。特にホウ素置換された共役トリエンは位置および立体選択的にトリエン構造を構造導入できる合成ビルディングブロックであり、各方で活用していただけるようにそのスコープを拡大して展開する計画である。また、これらの合成ビルディンブロックを応用した生物活性物質の合成についても一部成功しているため、それらの論文発表を行う。従来の共役ポリエン合成法では、Wittig反応などの化学量論的な方法や、反復的クロスカップリング法などの方法が知られているがいずれも工程数が多くなる反応であり、本手法が1段階で共役鎖を構築できる手法である特性を活かしてワンポットでπ共役鎖を伸張される等の方法によりその特徴を活かした研究展開を行う。 またπ共役鎖が拡張されたヘテロアセン化合物については半導体特性についてはおそらくその安定性のために物性評価が困難であったが、HOMOおよびLUMO付近のエネルギーギャップを分子設計により容易に制御できる分子であり、蛍光発光が確認されることから物性測定を含めて研究を進め、論文発表する予定である。
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