触媒の一つのキラル源から、両鏡像異性体の生成物をそれぞれ選択的に合成する触媒的不斉多様化反応は、合成に必要な試薬・時間・エネルギーを大きく削減する。本研究では、構造自由度の高いグアニジン有機触媒による不斉多様化反応について、触媒構造と熱力学的パラメータに着目した理論解析を行うことで不斉多様化反応が進行するための要因を明らかにすることを目的とした。また当該の触媒反応を用い、生理活性天然物の合成への応用を検討した。 我々はこれまで、分子中にグアニジンとチオウレア基を有する官能基複合型有機触媒を創製している。当該触媒を用い、イミンとマロン酸エステルとのMannich型反応において、フェノール類とニトロアルケン類及びイミン類とのFriedel-Crafts (FC) 反応において、不斉多様化またはその傾向が観察されることを見出した。これらの反応では、反応溶媒、反応温度に依存して不斉多様化やその傾向が観察される。そこでFC反応において、熱力学的パラメータに着目した理論計算による反応解析を行った。その結果、当該反応では触媒がS字構造をとりながら2つの反応基質と水素結合等の弱い相互作用を介して遷移状態を構築することを、またその際エントロピー項が大きく関与することを見出した。実際当該反応についてEyring plot解析に基づき熱力学的パラメータを求めたところ、エントロピー項がエンタルピー項と比較して大きく関与していることがわかった。またこれらの熱力学的パラメータの寄与率に着目し触媒の構造活性相関を行ったところ、触媒の鎖状部にaliphaticな置換基を導入した場合に、触媒反応におけるエントロピー項の寄与率が大きくなることがわかった。これは、理論計算からの結果とも一致した。さらに本触媒反応を基盤として、(+)-gracilamineの全合成を行うことができた。
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