数万の分子量を誇る酵素の多彩な立体かつ基質特異的な機能を分子触媒レベルで発現するには、従来の画一的な単一分子触媒の限界を乗り越える必要がある。本研究では適切な酸点と塩基点を配置した複数の小分子を予め分子設計し、酸・塩基の動的な親和的相互作用を駆動源とするキラル超分子触媒をin situで創製する。酵素の鍵穴と触媒活性点にあたるキラルキャビティーを自在に作り出し、従来の単一分子触媒には不向きな分子包接効果を発現させる。反応効率を極限まで高めつつ、合成困難を可能にするテーラーメイド型のキラル超分子触媒の創製とそれらを用いた高次選択的触媒反応の開発を目指した。特に、シンプルな小分子素子からなるキラル超分子触媒をシステマティックに開発し、基質選択性や位置および立体選択性を発現するテーラーメイド型超分子触媒による高次選択的触媒反応を達成した。具体的には、全期間を通して、(1)ブレンステッド酸・ブレンステッド塩基複合触媒、(2)ブレンステッド酸・ルイス酸複合触媒、(3)ブレンステッド酸・ブレンステッド酸複合触媒、(4)ルイス酸・ルイス酸複合触媒、の4種類にタイプ分けして本研究を進めた。これらのうち、H31年度(令和元年度)は、(2)ブレンステッド酸・ルイス酸複合触媒の開発、(4)ルイス酸・ルイス酸複合触媒の開発、を重点的に開発した。項目(2)では、キラルリン酸を用いる反応開発を行ない、光学活性環状ホモアリルアルコールを得るための重要反応であるカルボニル・エン反応を開発した。項目(4)では、塩基部位を有するキラルホウ素Lewis酸に嵩高いアキラルホウ素Lewis酸を組み合わせる触媒設計を行い、今までにないマルチ選択的なDiels-Alder反応へ展開した。
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