研究課題/領域番号 |
17H03057
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大橋 理人 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (60397635)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フルオロメタル化 / パーフルオロアルキル化 / パーフルオロアルコキソ化 / 11族遷移金属 / 遷移金属錯体活性種 |
研究実績の概要 |
1,10-フェナントロリン (phen) を支持配位子とする銅(I)フルオリド錯体 (phen)CuF の塩化メチレン溶液に四フッ化エチレン (TFE; CF2=CF2) を作用させたところ、銅-フッ素結合に対する TFE の挿入(フルオロキュプレーション)が進行し、ペンタフルオロエチル銅(I)錯体 (phen)CuC2F5 を単離収率 54% で得るとともに、その分子構造を単結晶X線構造解析により明らかにした。この錯体の DMF 溶液にヨードベンゼンを加え、60 ℃で 5時間加熱したところ、ペンタフルオロエチルベンゼンを収率 85% で与えた。この反応で副生する (phen)CuI を DMF 中、フッ化セシウムで処理したところ、(Phen)CuF が再生することを分光学的手法から明らかにした。これらの量論反応の結果を踏まえ、四フッ化エチレンのフルオロキュプレーションを鍵過程とする、ヨードアレーン類の触媒的ペンタフルオロエチル化反応を確立し、その成果を専門誌に投稿した(2018年5月投稿 → 受理)。本触媒反応を効率よく進行させる鍵は、反応溶液を撹拌しないことにより溶存する TFE 濃度を適切に制御(抑制)する必要がある。
一方、多様なフルオロアルキル銅錯体の効率的な調製法の確立を目指し、(phen)CuF とヘキサフルオロプロピレンとの反応を検討したところ、2種類の錯体を含む混合物が生成物として得られた。種々精製条件を検討した結果、一方の錯体はパーフルオロイソプロピル銅(I)錯体 (phen)Cu(i-C3F7) であることを単結晶X線構造解析により明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度の当初計画においては、四フッ化エチレン以外のパーフルオロアルケンとの反応を検証する予定であったが、ヘキサフルオロプロピレンとの反応から当初想定していた生成物のみならず、別の錯体も生成していることが明らかとなった(このため、繰り越しを余儀なくされている)。種々検討の結果、当初想定していた生成物(ヘキサフルオロイソプロピル銅錯体)を単離・構造決定することができた。一方、この研究を進めている過程で、カナダの Tom Baker らの研究グループが、トリフェニルホスフィンを支持配位子とする銅フルオリド錯体とヘキサフルオロプロピレンとの反応から、同様のヘキサフルオロイソプロピル銅錯体が得られることを Organometallics 誌に発表した (Organometallics 2018, 37, 422)。この報告を踏まえ、種々の配位子を有する銅フルオリド錯体の調製とヘキサフルオロプロピレンとの反応に関する検証は一時中断している。 一方、TFE との反応から得られるペンタフルオロエチル銅錯体を鍵活性種とする有機骨格へのペンタフルオロエチル基の導入反応については、当初予定(銅試薬を化学量論量用いた反応)よりも大幅に進展し、ヨードアレーン類を基質として用いた場合には銅の触媒化を達成し、その成果を専門誌に発表する段にこぎつけた。
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今後の研究の推進方策 |
四フッ化エチレンに限定されているものの、パーフルオロアルケンのフルオロキュプレーションを鍵過程とする有機化合物の触媒的パーフルオロアルキル化反応を確立することができたので、今後は、遷移金属フルオリドとパーフルオロ酸フルオリドとの反応を鍵過程とする、遷移金属パーフルオロアルコキシド錯体の発生法の確立と、これを鍵活性種とするパーフルオロアルコキシ基の導入反応の開発に注力する。
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