研究課題/領域番号 |
17H03059
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
石川 勇人 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 准教授 (80453827)
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研究分担者 |
高山 廣光 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (90171561)
谷 時雄 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (80197516)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生合成模擬的合成 / 全合成 / 不斉有機触媒反応 / モノテルペノイドインドールアルカロイド / セコロガニン |
研究実績の概要 |
29年度は配糖体型モノテルペノイドインドールアルカロイドの網羅的全合成へ向けて、鍵中間体となるセコロガニンアグリコンの合成を行なった。セコロガニンアグリコンは連続した3つの不斉中心とβーアクリル酸エステル構造を含むジヒドロピラン環構造を有している。今回、セコロガニンアグリコンの不斉中心を、独自に開発したハーフチオエステル構造を持つ2-メチレンマロネート誘導体とチオフェニル基を側鎖に有するアルデヒドとの不斉マイケル反応で導入した。続いて、福山還元反応条件でチオエステル基を選択的にアルデヒドへと変換し、さらに自発的に生じる環化反応を経てβーアクリル酸エステル構造を含むジヒドロピラン環を構築した。さらに、アルキン側鎖をヒドロホウ素化によりアルデヒドへと変換し、続いてチオフェニル基を足がかりに末端オレフィンを導入することによりセコロガニンアグリコンの全合成を達成した。総工程数はアルデヒドから7段階であり、全ての工程が収率よく進行するため、グラムスケールでの鍵化合物の調製が可能となった。得られたセコロガニンアグリコンの光学収率は93%eeであり、本化合物の世界初の不斉合成を達成した。引き続き、得られたセコロガニンアグリコンを用いて、トリプトファン誘導体とPictet-Spengler反応によりモノテルペノイドインドールアルカロイド類の基本骨格を構築した。最初の合成標的として14員環マクロラクトン構造を持つマクロリジンを設定し、現在、マクロ環化反応の検討を行っている。一方で、標的としたマクロリジンは1970年代に単離、構造決定された化合物であり、詳細なスペクトルデータが不足していた。そこで、バントン工科大学(インドネシア)との共同研究により、マクロリジンの単離研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本提案ではモノテルペノイドインドールアルカロイド類の網羅的全合成を目標に掲げている。そのためには、核となる共通鍵中間体から様々なアルカロイドへ派生して行く合成戦略が必要である。今回、最も重要と位置付けることができる鍵中間体セコロガニンアグリコンの不斉合成、ならびに大量供給法の確立に成功した。これにより、本提案が極めて現実味を帯びたと考えている。また、1970年代に単離、報告されていたアルカロイド類を、現代において再度研究するためには起源植物の入手は必須であった。今回、連携研究者のLia博士により、インドネシア産の起源植物樹皮メタノールエキスを調製することにも成功した。したがって、標的天然物を手に入れることが可能になった。本提案を成功させる上で、困難と思われていた課題を解決することができたと考えている。以上の理由により、概ね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
すでに、確立したセコロガニンアグリコンを用いて、生合成上流の配糖体型インドールアルカロイドの網羅的全合成へと展開する。具体的な合成標的はマクロリジン、ルベニン、ストリクトシジン、デオキシアジフォリンや5α-カルボキシストリクトシジンであり、全て、セコロガニンアグリコンから5段階以内での全合成を目指す。加えて、合成した化合物群は抗腫瘍活性、抗菌活性をはじめとした幅広い生物活性試験を行う。一方、今回、セコロガニンアグリコンとトリプトファンの縮合反応の検討において、本提案のもう一つの目的となっているモノテルペノイドインドールアルカロイド類の生合成下流アルカロイドの網羅的全合成における革新的知見が得られた。すなわち、生合成下流の鍵中間体となるガイソシジンが生合成同様セコロガニンから効率的に合成できる可能性が示された。これにより、今回提案する全てのモノテルペノイドインドールアルカロイド類がセコロガニンアグリコンから誘導できる事になる。従って、これまで提案していた19段階必要であったガイソシジンの合成経路から変更し、セコロガニンアグリコンからの短段階全合成を目指す。本新規合成ルートが開拓されたならば、これまでの合成よりも5段階以上短い工程数でガイソシジンが供給可能であるだけでなく、生合成模擬的全合成という意味でも極めて意義深いものとなる。ガイソシジンの合成が完了した後、生合成下流アルカロイドであるラジマル、ランセオミジン、クアテルノリンおよび関連アクアミリン型アルカロイドの合成を目指す。更に、ガイソシジンからサルパギン型アルカロイドであるポリネウリジン、タベルプシチンを、続いてゲルセミン型アルカロイドであるゲルセミンの合成を達成する。得られたアルカロイド類は生合成上流アルカロイドと同様に、幅広い生物活性試験を行う。
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