ビニル基を有する,光学活性なプロパルギルアルコールに対し,銀触媒存在下,DBUの共存条件で二酸化炭素ガスと反応させると,対応する光学活性な環状炭酸エステルが得られる。これに触媒量のルイス酸をさせると,脱炭酸を伴いナザロフ環化反応が進行し,対応する2-シクロペンテノン誘導体が,高い収率,高い光学収率で得られることを明らかにした。しかし電子供与性置換基を有する基質に対してはルイス酸触媒により発生するカルボカチオンが極度に安定化されるため,不斉転写率が大きく低下するが,無触媒加熱条件では不斉転写率が大きく改善する。さらに,同一温度でマイクロ波照射を併用すると,不斉転写率を維持しながら反応速度が向上することを見出した。 また,銅錯体触媒によるナザロフ環化反応の反応速度がマイクロ波出力の増大に伴い向上することを確認した。複数の基質に対して同様のマイクロ波加速が確認された。反応温度の影響を調べたところ,50℃では2.2倍,35℃では5.8倍のマイクロ波による反応加速が観測され,低温ほど加速されることからマイクロ波の直接的な作用であると考えられる。さらに速度論解析に結果,アレニウス式の衝突頻度因子がマイクロ波照射で3.3倍増大することがわかった。この結果は,マイクロ波加速が,エントロピー的な効果であることを示すものである。 この結果は報告者が提唱する,マイクロ波効果が基質分子の配座平衡の活性化に基づくとの作業仮説と矛盾しない。顕著なマイクロ波加速が観測されるアトロプ軸不斉化合物はビアリール環の結合軸に関する回転振動数がテラヘルツ領域に観測されると予想されることから,分子科学研究所のビームラインを利用してテラヘルツ分光を試みた。この結果,3種のアトロプ軸不斉化合物からテラヘルツ領域の吸収スペクトルが得られた。
|