研究課題
燃料電池応用を指向した無水プロトン伝導性液晶高分子膜の構築を行った。双性イオン構造としてイミダゾリウムスルホベタイン構造を有する光重合性液晶分子の設計・合成を行った。光重合基にはアクリレート基を採用した。液晶性発現および相転移温度を制御するために重合性基の数を調節した。重合性基を二つ有する扇型分子構造の双性イオンモノマー単独体は、20°C以上でヘキサゴナルカラムナー液晶性が発現した。この双性イオン性モノマーと様々な酸性分子を溶液混合して、溶媒を除去することにより、プロトン伝導性を示す液晶性複合体が得られた。例えば、無水ベンゼンスルホン酸、硫酸、リン酸と双性イオン性モノマーとの等モル混合により得られる複合体は、30°C以上でヘキサゴナルカラムナー液晶性を示した。光ラジカル重合開始剤をドープした双性イオン液晶/酸性分子複合体に対して、液晶場において紫外線を照射することにより、機械的安定性・自立性を有する高分子フィルムを得ることに成功した。双性イオン液晶モノマーを光架橋して得られる高分子フィルムは10-9 S cm-1オーダーのイオン伝導性を示すのに対して、酸性分子との複合体液晶を架橋して得た高分子フィルムでは100°Cの無水条件下で最大で10-3 S cm-1オーダーのプロトン伝導度が得られ、飛躍的な伝導度上昇を達成することに成功した。また、ニトリル基を有する光重合性分子とイミダゾリウム型プロトン性イオン液体からなる二成分系超分子液晶を開発することに成功した。ニトリル基とイオン液体とがイオンー双極子相互作用することにより、プロトン性イオン液体が一次元および二次元チャンネル構造を形成することが明らかとなった。さらに、光架橋により高分子フィルム化することに成功し、双性イオン液晶高分子フィルムよりも高プロトン伝導度を達成することができた。以上、本研究では新しい分子集積手法を開拓した。
2: おおむね順調に進展している
2017年4月に東京大学から物質・材料研究機構に異動して研究室の立ち上げをするために時間を要した。研究提案書では研究1年目において液晶高分子膜の燃料電池特性の評価まで研究を進展させる予定であったが、新規液晶高分子膜の開発とプロトン伝導性評価までに留まった。しかし、当初予期していなかったニトリル基とプロトン性イオン液体のイオンー双極子相互作用によって二成分系超分子液晶が得られることを新たに見出した。動的な非共有結合によるプロトン性イオン液体の低次元組織化が達成できたことから、当初研究計画よりも高プロトン伝導性を示す液晶高分子膜が得られた。
今後は、双性イオン液晶/酸性分子の複合体およびニトリル分子/イオン液体からなる液晶高分子膜について、触媒担持カーボン電極との接合体を作製し、これらの燃料電池特性の評価を行う。また、まだ達成できていない双連続キュービック液晶構造を発現するプロトン伝導性液晶モノマーの設計・合成を行い、プロトンチャンネルの配向制御がフリーな材料創製の実現を目指す。
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