研究課題/領域番号 |
17H03067
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 一生 京都大学, 工学研究科, 教授 (90435660)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 共役系高分子 / 13族元素 / 発光 |
研究実績の概要 |
A. 13族元素含有メタロフルオレンにおける励起駆動型配位子開裂機構の実証 フルオレンにヘテロ元素を導入したメタロフルオレンと呼ぶ。これまでに窒素配位子による安定化効果を利用して、4配位のホウ素からインジウムを含む安定なメタロフルオレンの合成を達成している。それらの錯体の発光特性を調べた結果、ホウ素のフルオレン(ボラフルオレン)においてのみ発光が見られた。量子化学計算の結果、基底状態では安定な4配位構造を形成するのに対し、光励起によりB-N間の結合が開裂し、極めて電子受容性の高い3配位のホウ素が生成し、これを電子受容部位としたCT性の発光であることを示す結果を得た。今年度はこれらのホウ素錯体を高分子化することで、光学特性の変化について検証を行った。その結果、置換基導入と同様に発光特性の制御が可能であった。さらに、予想外の固体発光性も見出された。引き続き、これらの物性の検証を進めていく。 B. 軌道の対称性変換による発光特性付与を目的としたアザフェナレン含有共役系高分子開発 アザフェナレン類はメタ位でも電子の非局在化が起こるなど、特異な電子物性を有することが明らかとなってきたが、軌道の対称性のため、HOMO-LUMO遷移が禁制となることから、吸収係数も発光も非常に小さい。ここで、電子的相互作用のある置換基を導入することで、軌道の対称性が変化し、発光を示すようになることが量子化学計算の結果より予想された。実際にホウ素錯体化したアザフェナレン単分子では発光特性の増加が観測され、予想を支持する結果となった。さらにより大きな発光特性を付与するために、環構造の別の部位に窒素を導入した。その結果、アザフェナレンの対称性が変化し、強発光性の付与が観測できた。修飾アザフェナレン錯体の合成を行い、アザフェナレン骨格への置換基導入について反応条件の最適化を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、材料構築の足場となるそれぞれの新規元素ブロックの合成と、それらを連結することで材料を得ることが技術的に最も困難であり、したがって、それらの反応条件の最適化に研究期間を多く取られることが予想されていた。本年度についても、新規元素ブロックの合成と高分子化、複合化などの材料を得ることについて最優先で研究を進めてきたが、予想よりも早く合成目標の元素ブロックが得られてきたことと、それらが安定であることが明らかとなった。そのため、一連の光学特性・材料物性の測定を容易に行うことができ、様々な新機能を発見することができた。それらを用いた元素ブロック材料からは目的となる機能が得られ、プロトタイプとしてさらなる段階の応用などを視野に入れることができている。例えば、メタロフルオレンのテーマについては、当初は電子状態のみに注目し、共役系構築を進めてきたが、高分子化によっても電子状態を制御できることと、分子の運動性を抑制することで発光特性を増強できることも明らかとした。さらに、予想外の固体発光性も見出すことができた。この現象を利用することで、これまでに検出が困難であった低極性溶媒の粘性等、様々な物性パラメータを視覚化する化学センサーへの利用が期待できる。 また、アザフェナレンについて、従来はフロンティア軌道のエネルギー準位のみを考慮に入れ、電子状態の予測と評価を行ってきた。一方、研究を進める中で、HOMO-1やLUMO+1というセカンドオービタルが光学物性に寄与することが明らかとなってきた。ホウ素化によりこれらを制御することができたことに加え、次年度合成予定であった新規骨格分子についても合成を完了することができた。これらを用いると透明導電フィルムなど、僅少な材料を新原理で得られる可能性が出てきたことから、本年度は予想以上に研究が進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発した4配位のホウ素からインジウムを含む安定なメタロフルオレンの量子化学計算の結果、基底状態では安定な4配位構造を形成するのに対し、光励起によりB-N間の結合が開裂し、極めて電子受容性の高い3配位のホウ素が生成し、これを電子受容部位としたCT性の発光であることを示す結果を得た。そこで、励起状態での開裂に関して、高周期元素でも同様の現象を起こすことができることを示す。特に、これまで合成に成功している高分子の共役主鎖上で電子供与性ユニットと組み合わせることでCT性の高輝度発光を得ることを試みる。これまでの分子は安定性が低く高分子化は困難であったが、本研究ではすでに合成法を確立しており、励起状態でのみ3配位の13族元素を共役主鎖上に現出する方法の確立に向け、研究を進め、「強い電子受容性」という13族元素の特徴を利用した高輝度発光性高分子材料を得ることができる。さらに、高分子からも同様の機構で発光が得られることを目指す。種々の電子供与性コモノマーと交互共重合体を合成し、光学特性の変化を調べる。繰り返し単位のモデル化合物も作成し、量子化学計算の結果と実験データを比較して、本機構から得られるCT性の発光の特徴を明らかにする。 さらに次のテーマでは、錯体化による共役系高分子における新たな発光能獲得戦略を示す。昨年度までに合成に成功した新規アザフェナレン類を元にして、大きな発光特性を付与するために、今年度では、13族元素の錯体化と高分子化を利用する。アザフェナレンを共重合体とホウ素錯体部位で挟むことで対称性が変化し、強発光性の付与が期待できる。具体的には、安定なアザフェナレン錯体による重合反応を行い、高分子量体を得る。錯体化の有無による発光性の変化と、13族元素の高周期元素化による発光強度の増強を検出することで、軌道の対称性の発光特性への影響を実証する。
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