研究実績の概要 |
昨年度に引き続き,高分子反応による酢酸ビニル(VAc)-ビニルアルコール(VOH)共重合体の連鎖制御と連鎖解析を重点検討課題とした。VAc-VOH共重合体は工業的に重要なポリマーであり,PVAcのメタノール溶液中,水酸化ナトリウムを触媒とするエステル交換反応により合成されている。この共重合体はブロック性の連鎖を有する。 1.ブロック性連鎖のVAc-VOH共重合体をジメチルスルホキシドに溶解させ,テトラtert-ブチル亜鉛酸ジリチウム(TBZL),本課題で見出した新規亜鉛アート錯体(TBOZK),ならびに,カリウムtert-ブトキシド(TBOK)を触媒とする均一系エステル交換反応の進行に伴う3連子連鎖の変化を調べた。TBOKを用いた場合,ブロック性連鎖が単にランダム化するのみであったが,TBZLあるいはTBOZKを用いた場合は,ランダム化は主としてVAc中心(VAc-VAc-VAc, VAc-VAc-VOH, VOH-VAc-VOH)で進行し,特異な連鎖構造の共重合体が得られた。この共重合体は,既存のブロック性あるいはランダム性連鎖より溶解性が優れる一方で,ランダム性共重合体より成膜時の機械的物性が優れることがわかった。 2.Alfrey-Priceのe値が互いに大きく異なるVAcとトリフルオロ酢酸ビニル(VTFAc)のラジカル共重合を行い,生成ポリマーの選択的脱TFAc化に成功した。得られたVAc-VOH共重合体は,これまでに例のない,交互性連鎖が過剰な連鎖構造を有していた。このポリマーの2次元NMRにより,3連子によるピーク分裂の正しい帰属を確定した。 3.酒石酸エステルとN-アリル-N-tert-ブチルアクリルアミドの水素結合を利用したラジカル不斉環化重合と,生成ポリマーの高分子反応を利用した連鎖解析を行った。
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