研究課題/領域番号 |
17H03071
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
遊佐 真一 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (00301432)
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研究分担者 |
岩崎 泰彦 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (90280990)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フラーレン / 高分子ミセル / 感温性 / 近赤外 / 精密ラジカル重合 / 光熱変換 / 刺激応答性 / 薬物放出 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生体組織透過性の高い近赤外光を用いて、光熱変換効率の高いフラーレン類により発熱を誘起することで、感温性ポリマーの親・疎水性をコントロールすることである。特に上限臨界溶液温度(UCST)を示すポリマーを用いる。UCSTを示すブロックと生体適合性で側鎖にホスホリルコリン基を持つポリマー(PMPC)のジブロック共重合体を合成する。 フラーレンとのコンプレックス形成を既に確認しているPMPCブロック、UCSTを示す側鎖にウレイド基を含むメタクリレート型ポリマー(PUEM)のブロック、生体適合性で水溶性のポリ(エチレングリコール)(PEG)ブロックと、からなるトリブロック共重合体(EUM)を合成した。フラーレン類のC70とEUMの粉末を乳鉢中で混合して、少しずつ水を加えて溶解し、遠心分離とろ過で精製することで、水溶性のC70/ EUMコンプレックスを作製した。このコンプレックスは、コアがPMPCとC70による会合体で、その周囲を感温性のPUEMシェルが覆い、最外層を生体適合性で親水性のPEGコロナ鎖が覆った形状となる。C70/EUMコンプレックス水溶液を昇温したときの粒径の変化を動的光散乱(DLS)で調べた。その結果、昇温に伴い粒径が増加することを確認した。これは、室温でPUEMシェルブロックはUCSTより低温で、収縮するためコンプレックスのサイズが小さくなる。一方、昇温によりUCSTより高温でPUEMシェルが水和して伸長することで、コンプレックスのサイズが増加したと考えられる。さらにコンプレックス水溶液の降温と昇温を繰り返すと、コンプレックスのサイズは収縮と膨潤を繰り返すことができた。これらの結果から、C70/EUMコンプレックスのシェルに含まれるPUEMブロックはUCSTを示すことを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、フラーレンとコンプレックス形成可能な感温性のトリブロック共重合体のEUMを制御ラジカル重合法で合成した。得られたEUMはNMRやGPCなどの方法でキャラクタリゼーションを行い、合成に問題ないないことを確認した。フラーレン類の中でも比較的長波長側に吸収のあるC70を用いて、EUMとの水溶性コンプレックス形成を行った。C70とポリマーの粉末を混合して、遠心分離とろ過で精製を行い、水溶性のコンプレックを作製した。この水溶液の調製で使用するC70の量とEUMの量が、どのようにC70の水への可溶化量に影響するのかを、紫外-可視吸光分光法で確認した。その結果これまで報告されている、水溶性ポリマーのポリ(N-ビニルピロリドン)などを使用してC70を水に可溶化した場合より、今回のEUMを使用した方が、より多くのC70を水に可溶化できることを確認した。これまでの研究でEUMのホモポリマーでフラーレン類を水に可溶化できることは、既に確認していたが、EUMでもフラーレン類を水に可溶化できた。 さらにC70とEUMのコンプレックス(C70/EUM)の水溶液は、昇温に伴いシェルに含まれるPUEMのUCSTの影響で膨潤した。また室温に戻すと、コンプレックスは元のサイズに戻った。したがって、加熱・冷却で可逆的にコンプレックスの膨潤・収縮を制御できることを確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の予定としては、当初の研究計画に沿って、C70/EUMコンプレックの近赤外光の照射による発熱について調べる。このときの最適な実験方法について検討する。さらにコンプレックス中に、抗がん剤などのモデル分子となる蛍光物質を取り込ませる。疎水性の蛍光物質は、UCST以下の室温でシェルを形成しているPUEMは、疎水性であるため、疎水性のゲスト分子を取り込めると期待される。蛍光法を用いて、ゲスト分子の取り込み量を定量的に評価する。さらに、ゲスト分子を取り込んだコンプレックスの水溶液をUCST以上に加熱することで、シェルのPUEMが親水性に変化するため、取り込んでいた疎水性ゲスト分子を放出可能であることを、蛍光分光法で確認する。最終的には、水溶液の加熱ではなく、溶液に近赤外光を照射してコア中にあるC70の光熱変換により、発熱させる。その熱でシェルのPUEMを加温することで、UCST以上の温度にして、内包薬物を制御放出できるのか、蛍光法を用いて評価する。 もしコンプレックスに対する近赤外光の発熱がUCSTより低い場合は、C70以外の光熱変換物質の利用も検討する。さらに、近赤外光照射による発熱だけでなく、活性酸素の発生量についても調べる。フラーレンは可視光照射により活性酸素を発生することが知られているため、近赤外光で活性酸素を発生するか調べる。活性酸素を発生すれば、内包薬物の加熱による制御放出と、同時に活性酸素による細胞死の誘導が期待できる。
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