研究課題/領域番号 |
17H03072
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小柳津 研一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90277822)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電荷授受 / 電荷貯蔵 / 双安定性 / レドックス / 有機活物質 |
研究実績の概要 |
本研究は,電荷授受席として働く有機部位を密度高く凝縮させた非晶質ポリマーにおける電荷の輸送・貯蔵過程に関する基礎的追究を継続し,高分子の電気化学的な双安定性,すなわち酸化,還元の両状態における化学的安定性の学術的意義と応用を明らかにすることを目的とする。これを電荷の貯蔵 (電池としてみればエネルギー蓄積),高速蓄電,電荷輸送制御など多様な実例へ展開し,双安定性に特徴づけられた新しい機能性高分子を開拓することを目指している。これまでの研究で,キノイド系ポリマーを負極活物質として空気電池を実証した成果を起点に,電子交換に立脚した高密度蓄電に関わる基礎を明確にしている。本年度は特に,有機活物質として働くポリマーを,新しい酸化還元席の創出と電荷貯蔵過程における電子・イオン輸送の解明によって拡張し,単一イオンのみが両極間を充放電に伴い移動する,いわゆるロッキングチェア型電荷補償性を持たせた多様な電荷蓄積形態を実証するとともに,高密度有機活物質の一群を創出した。 具体的には以下のような成果を得た。 前年度に着手した課題 「高度輸送性を目指した共役鎖の組込み」 の追究から革新的電荷輸送・貯蔵ポリマーを創出した。電荷と補償イオンの拡散距離を制御するため,π共役系を組み込んだ分子レベルの複合電極を用いて電荷輸送効率を高めた。これを拡張して,キノイドを電荷授受席とする双安定ポリマーと多様なπ共役ポリマーからなる複合電極を作製し,界面での電子移動過程を解明した。最も良好な結果が得られた一例として,キノイドポリマーが電解質中で形成する膨潤ゲルにおいて,その場電解重合可能なモノマーを置換したプレポリマーを合成し共役鎖を形成させたところ,導電パス形成に伴う電荷授受席の反応性が著しく向上することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画に沿って,高出力を可能とする斬新な複合物質の創出に取り組んだ結果,電位やイオンの拡散性などをプローブとして,電荷授受席と共役系の複合化の効果を明確にできた。これまでにない電荷貯蔵物質として,界面が分子レベルで構造制御された授受席/π共役鎖複合体を対象に,π共役鎖の存在密度やモルホロジーを詳細に解明した結果,これらをバルクでの (すなわち電極全体としての) 電荷輸送・貯蔵特性と定量的に相関させることが可能となった。また,ロッキングチェア型電荷補償に基づく多様な電荷貯蔵形式を実証する目的に向かって,有機正極として設計されたn型ポリマーを,Liイオン補償能に着目したLiイオン電池の正極活物質として新たに用いた結果,Li負極に適合した電解液条件で充放電に伴い実際にLiイオンのみが極間移動するロッキングチェア型電池として試作・動作実証できた。この蓄電形態は,Li金属酸化物からなるLiイオン電池とまったく同一であり,充放電の物質収支に基づき電解液量をイオン伝導性の確保に必要な最小限まで削減できることを明確にした。 以上の知見は,当初に目論んだ双安定性の概念実証と新しい活物質創出を目指す方法論確立に関して期待した成果を超え,レドックス高分子とπ共役高分子の界面での電荷授受が実際にマクロな (電極レベルでの) 性能を支配していることを明確にするとともに,高効率蓄電に役立つ複合化の方法論に未知の可能性が存在することを示唆している。すなわち,有機活物質の設計は,研究当初に期待した電荷授受席の高密度化と無定形固体としての凝縮相の実現によるだけでなく,さらに電荷授受と電子伝導の方法論的融合,あるいは概念的融合をも見据えた展開が有用であることを示しており,当初予想しなかった展開に繋がっている。 以上より,本研究は当初の計画以上に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本年度に得られた成果をさらに拡張し,複合電極の利点を最大限活用することで,従来にない高エネルギー密度の電荷貯蔵を可能とする,有機物ならではの斬新な蓄電形式として提案する。さらに,無定形高分子の強みを活かした積層化・薄膜化による高電圧の発生や,交流からの一定電圧 (矩形波) 出力,交流信号の増幅を可能とする純有機物からなるデバイスの実現など,電気的双安定を有する電荷貯蔵ポリマーに特有の興味ある特殊物性を開拓・追究する。 今後の研究推進において,研究計画変更の必要性や研究を遂行する上での問題点などはなく,当初の計画に沿って,斬新な有機活物質の創製と電気的双安定性の学術的基礎の確立に向け,着実かつ効率高く研究成果を積み上げたい。特に,次年度は本研究の最終年度前年度となるため,全体の成果取りまとめに向け成果集積を加速させるべく,基礎と応用の両面で有機活物質の有用性を一層明確にすることに注力する。
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