研究実績の概要 |
(1)プローブ設計・機能評価:o-フェニレンジアミンをエチレンリンカーで連結したPt(II)錯体の特異なエチレン脱離反応について,反応速度解析から反応機構を決定した.X線結晶構造解析から,リンカーにより白金の配位環境が平面からズレていることもわかり,当該錯体の不安定性が示された.以上,配位環境に影響を与えないリンカーおよびその導入部位がプローブの速度論的安定性確保の上で肝要であることを明らかにした. (2)送達システム開発:3,5-ジブロモ-1,2-ジアミノベンゼン(Br2DAB)を配位子とする疎水性のPt(II)ジラジカル錯体のがんへのEPR効果による送達を念頭に,ブロックコポリマー(PEG-siPMNT)ミセルへの導入を試みた.その結果封入効率74 wt%, 積載容量3.2 wt%, 粒径103 nmのポリマーミセル粒子を得ることに成功した.錯体濃度50 μMのミセル水溶液へレーザー光(730 nm, 2 W/cm2)を30 分照射したところ,18 ℃の温度上昇を観測した.しかし細胞への導入量はBSAをキャリアとした場合に比べ1/8に減少した. (3)生体内プローブ機能評価:Br2DABのジラジカルPt(II)錯体をBSAをキャリアとして導入した細胞について,NIR吸収顕微鏡像を取得した.蛍光顕微鏡を用いるオルガネラ染色の結果と照合したところ,錯体はミトコンドリアや小胞体に存在していることがわかった. (4)光熱効果によるがん細胞の殺傷:(3)で得たジラジカル錯体含有細胞へレーザー光(730 nm, 0.28 W, スポット径1 mm)を照射したところ15 分で細胞を殺傷できることを確認した. 以上総合するとNIR吸収ジラジカル白金錯体をプローブとしたセラノスティクスを実現するための基礎的なデータおよびプローブ設計指針を入手することに成功している.
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