本研究では、並列導入型質量分析装置(MS)の開発を行っている。これまでに、通信工学で用いられる周波数分割多重化法(FDM)を応用することにより、2台の液体クロマトグラフ(LC)と1台のMSを接続した2LC-1MSにおいて、MSで観測される混在信号から各 LC のクロマトグラムの抽出に成功している。また、4並列導入MSの開発にも成功している。 本年度は、並列導入型MSの多重度増大についてさらに検討を行った。本手法では、サンプルをMSに導入する際に適切な周波数を用いてクロマトグラムを変調し、その変調周波数を利用して信号抽出を行っている。そのため、多重度の増大のためには、高い周波数での変調が必要となる。これまで用いていた変調システムでは高周波数においては適切な変調を行うことが不可能であり、最大でも数Hzまでしか利用ができなかった。しかしながら、変調システムの電気回路・MSにおけるサンプリング速度を見直すことにより、最大40 Hz程度までの変調を行うことが可能であるシステムの開発に成功した。さらに、インターフェイス構造の抜本的見直しを行い、新たに6並列導入が可能であるインターフェイスの開発を行った。これにより、6台のLCを1台のMSに接続する6LC-1MSシステム開発の基盤を確立することに成功した。 また、定量精度に大きな影響を与える、LC-LC間の干渉についても検討を行い、これまでわずかに観測されていた干渉の原因を特定することに成功した。干渉に関する研究の過程で、試料成分に付加するイオンを別種とすることで一つの導試料入口に2サンプルの同時導入を行うことが可能となる可能性が高いことを見出した。すなわち、最大12サンプルの並列導入分析(12LC-1MS)を行うための基盤技術を確立することに成功した。
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