本研究では光励起によって短時間だけ不対電子を発生する過渡的常磁性種を利用する新しいアプローチで、蛋白質表面を色素タグ化した試料で行う新しい「距離測定法」と、マトリクスに均一に混入した三重項色素緩和剤で実現する「増感法」を開拓する。 「距離測定法」では、まずマレイミド化フラビンタグの合成を完了した。フラビン・リビチル鎖のDMT-MMによる活性化を利用したNメチルマレイミド酸塩とのアミド結合形成は、溶媒や塩基の種類や分量を振って試行したが、結局反応が進まないか目的物の生成以前に分解が起こる問題で断念した。そこで、アロクサジン環3位を直接カルボキシル化しマレイミドを縮合する代替案を実行し、目的物を得ることに成功した。この新規タグは水溶性が高く、加水分解に強いアミド結合を持つ。またリンカーは当初の計画より1炭素減炭しており、構造の分布が抑えられた優れたタグとなった。 得たタグはシステイン変異・標的蛋白質GB1に結合、精製した。ここから固体NMR測定用の微結晶試料と溶液NMR緩和測定用の試料を作成した。最後に、励起常磁性種による過渡的緩和促進を検出する2次元固体13C-13C相関測定、2次元非線形サンプリング溶液1H-15N相関測定実験を進めた。 「増感法」では3重項量子収率が高く、3重項寿命が特に長い事が知られる、ローズベンガルやフロレセイン色素について、脱酸素の方策として脱酸素酵素2種を、過渡的青色励起光照射による寿命性能を経時的可視分光測定で検定した。続いて、極低温(100 K)MAS条件下における緩和促進率を、青色単色光励起、さらにゼノンランプを用いる白色光励起を用いて計測、最も緩和増進の高い色素としてFMNを特定した。 距離測定法、増感法共にこれまでに報告のない過渡的常磁性種の特性を生かした新しい試みとなり、今後も膜蛋白質を含め様々なユニークな応用を拓くと考えられる。
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