研究課題/領域番号 |
17H03092
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
當舎 武彦 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 専任研究員 (00548993)
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研究分担者 |
新井 博之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (70291052)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脱窒 / 金属酵素 / 一酸化窒素 / タンパク質複合体 / 電子顕微鏡 / ヘム |
研究実績の概要 |
細胞内において、硝酸から窒素分子への4段階の連続した還元反応である脱窒のような連続化学反応がどのように効率よく制御されているのか理解するために、脱窒に関わるタンパク質群が超分子複合体を形成し協調的に機能しているという概念に基づき、研究を進めている。 脱窒タンパク質の超分子複合体を単離するために、脱窒条件で培養した緑膿菌からの精製を試みた。細胞膜から脱窒タンパク質を抽出する際に、天然の脂質環境のまま可溶化が可能な両親媒性のスチレンマレイミド共重合体(SMA)を用いたところ、脱窒タンパク質である膜結合型一酸化窒素還元酵素(NOR)を含む画分を単離することができた。ただし、現在の条件では、可溶化の効率が良くなかったので、今後は、SAMによる可溶化を最適化し、得られた画分の分析を進める。 脱窒タンパク質の中でも、既にその複合体形成が構造学的に示されているNORと亜硝酸還元酵素(NiR)の複合体を対象に低温電子顕微鏡(CryoEM)法による構造解析に挑戦している。NOR-NiR複合体については、試料の均一性に問題があり、CryoEMによる構造解析には至っていないが、脱窒タンパク質の一つであるキノール依存性NOR(qNOR)についてCryoEMによる構造決定に成功した。得られた知見は、qNORの構造機能相関の理解につながるだけでなく、今後の脱窒タンパク質複合体の構造解析にも有用である。 脱窒タンパク質複合体の機能的役割について検討するために、NOR-NiR複合体について、NOの輸送機構を調べた。分子動力学計算の結果をもとにNO輸送経路上の変異体を作製し、NORへの基質結合過程を調べたところ、NORの活性部位近傍に存在し、高度に保存されたアミノ酸残基が迅速なNO結合に必要であることを発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脱窒タンパク質群による超分子複合体の単離精製を目指して、脱窒菌の細胞膜の可溶化法を検討してきた。可溶化の際に、界面活性剤ではなく、両親媒性のスチレンマレイミド共重合体(SMA)を用いる方法を試したところ、少なくともNORを含む成分が可溶化できることがわかった。NORと類似した試料をSMAで可溶化した際にタンパク質超分子複合体の単離に成功した例が報告されてきているので、本手法が脱窒タンパク質複合体の単離に有効であると期待できる。 CryoEMによる脱窒タンパク質複合体の構造解析には、試料の調製法の更なる最適化が必要であるが、脱窒タンパク質の一つであるキノール依存性NOR(qNOR)の構造をCryoEM法により、3.2 Å分解能で決定することができた。これは、活性をもつqNORの構造を原子分解能で決定した初めての例であり、脱窒における迅速なNO分解の分子機構を理解を深めるものである。また、qNORの構造解析を通じて得た知見は、脱窒タンパク質複合体のCryoEMを用いた構造解析にもいかされるであろう。 これまでに構造解析が完了しているNOR-NiR複合体について、その機能的意義に関して理解を深めるために、NOの輸送経路について検討した。NOR-NiR複合体中におけるNOの拡散を調べた分子動力学計算の結果を基盤に、NO結合経路を提案した。推定されるNO輸送経路に存在するアミノ酸残基の変異体解析からNORの活性部位近傍い存在するアミノ酸残基が非常に速いNOの結合に重要であることを見出した。このように、脱窒タンパク質の構造解析に加えて、その機能を詳しく調べることで、構造機能の相関について理解を深めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
脱窒タンパク質複合体の単離方法の確立を目指す。スチレンマレイミド共重合体(SMA)を用いた可溶化条件を検討するとともに、他の超分子複合体の単離に実績のあるマイルドな界面活性剤の使用も検討する。一方で、各脱窒タンパク質を精製し、それらを混合することで複合体を形成させることにも取り組む。これまでの研究で、NOR-NiR複合体の形成には、脂質が重要な役割を果たしていることが判明しているので、SMAで可溶化したものやナノディスク試料を用いる。 複合体の試料が得られれば、電子顕微鏡を用いた構造解析に取り組む。qNORのCryoEMを用いた構造解析で培った知識をいかし、まずはじめに負染色による観察を行う。この際には、試料の凝集状態や、複合体の形成割合などを指標として、試料調製の条件を確立する。負染色において、均一な試料粒子が十分量観測できる条件を決定できれば、CryoEMによる構造解析を行う。 構造が得られれば、相互作用部位など脱窒タンパク質複合体の機能に重要であると推測されるアミノ酸残基の変異体を調製し、機能解析を行う。
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