研究課題/領域番号 |
17H03097
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 秀樹 京都大学, 工学研究科, 准教授 (80376368)
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研究分担者 |
近藤 篤 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60533619)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 金属有機構造体 / In silicoスクリーニング |
研究実績の概要 |
Caにスクアリン酸が配位したCa1 ([Ca(C4O4)(H2O)]n)を合成し,大型放射光施設SPring-8のBL02B2ビームラインを用いてCa1のin situ粉末X線回折パターンを測定したところ, Ca1は,特異的な負の熱膨張を示すことが分かった。さらに,H2OおよびD2OをCa1に物理吸着させるとフレームワークの収縮が生じたが,それぞれの格子定数は異なる値となり,かつ,物理吸着状態においても負の熱膨張を示すという興味深い刺激応答性を見出した。H2OとD2Oの物理吸着時において格子定数に差異を生じるのは,Ca1のフレームワークと吸着分子間に働く相互作用が,プロトンの位置不確定性に起因する量子効果によって異なるためと考えられる。また,温度可変のin situチャンバーを備えたXRPD測定装置(ラボ)の開発を完了し,H2OおよびD2Oを包摂したCa1の粉末X線回折パターンの蒸気圧依存性を詳細に検討した。さらに,分散力補正密度汎関数法(DFT-D:CP2Kソフトウェア)を用いた分子動力学シミュレーションを行ったところ,上述の負の熱膨張は,スクアリン酸の分子面に対して垂直方向の分子振動がフレームワークを収縮させる方向に作用していることが要因であることが明らかになった。そして,物理吸着水は,Ca1のフレームワーク中に存在する化学吸着水と水素結合を介して相互作用していることが確認できたことから,この水素結合における量子力学的効果が,格子定数に差異を生じる主要因となっているものと予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大型放射光施設SPring-8での測定,および,温度可変のin situチャンバーを備えたXRPD測定装置(ラボ)の開発・導入を計画通りに実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
Ca1に加え,水分子と特異的な相互作用を示す他の金属有機構造体についても検討を進めることを予定する。また,Feynmanの経路積分(PI)法を応用したDFT計算を実施することにより,金属有機構造体に吸着したH2OをHDOに置換する際の自由エネルギー変化を計算する。本計算により,金属有機構造体の水分子同位体分離能を明らかとし,得られた情報を高性能な新規MOFのin silioスクリーニングに応用することを目指す。
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