研究課題/領域番号 |
17H03099
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
森 正悟 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (10419418)
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研究分担者 |
西井 良典 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (40332259)
木村 睦 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (60273075)
舩木 敬 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (80450659)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 色素増感太陽電池 / 誘電率 / 再結合 |
研究実績の概要 |
色素増感太陽電池(DSC)は一般的に酸化チタンを用いて作製されるが、酸化チタン以外の酸化物を用いても作製することができる。酸化亜鉛は多孔質電極の形状を制御することが比較的容易であり、酸化スズや酸化インジウムなどは酸化チタンよりも伝導帯電位が正側に位置しており、長波長光を吸収する色素に有効である。一方で酸化チタン以外の酸化物を用いたDSCのエネルギー変換効率は低く、その改善方法は明らかになっていない。その理由として酸化チタンを用いたDSCにおける電子移動機構はかなり明らかになっているが、その他の酸化物に対しては測定データも少なく、モデル化できていない。本研究では酸化チタンと比較するすることでその他の酸化物半導体に対しても電子移動機構を解明することを目的としている。 H30年度では4種類の酸化物(酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム)、3種類の色素、2種類の電解質の組み合わせでDSCを作製し、伝導帯電位と電子寿命を測定し、電解質に用いるカチオンの影響について詳しく調査した。また電荷分離に関連して、酸化状態色素の還元速度を酸化チタンと酸化亜鉛に対して、異なる色素と異なる半導体電極の作製条件の影響について調べた。また半導体電極上の色素間をホールが移動することが分かっており、その移動速度は色素周辺の誘電率が影響し、またホール移動速度は酸化状態色素の還元速度に影響を与えると考えられる。よって誘電率の違いがホール移動速度に与える影響について調べた。さらにルテニウム錯体において、電解液中のカチオンとの相互作用が電子移動速度に与える影響について調べた。その結果電解質のカチオンの影響については酸化チタンの振る舞いが例外的であることが分かった。また酸化物色素電解液界面での電荷移動経路は5つあるが、誘電率の影響が異なることがわかり、精密な設計指針が必要なことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
色素増感太陽電池において酸化物半導体の導電帯電位は電荷移動速度と効率に影響を大きく影響を与える。酸化チタンを用いたDSCにおいてはリチウムを電解質に用いると、バルキーなカチオンを用いた場合と比べて電位は正側にシフトし、色素からの電子注入効率が高まり、一方開放電圧は小さくなることが分かっている。そこでカチオンの影響を他の酸化物でも調べたところ、色素との組み合わせでは酸化亜鉛ではむしろ若干負側に電位がシフトする場合があり、酸化スズ、酸化インジウムでは若干正側にシフトしたが、酸化チタンに比べるとその影響はかなり小さかった。またバルキーなカチオンを用いた場合の方が電流値が大きくなることが多く、これも酸化チタンとは大きく挙動が異なった。また酸化チタンでは色素の双極子モーメントの影響はほぼ受けないが、他の酸化物ではその影響が暗示された。色素周辺の誘電率のホール移動度への影響を見られなかったが、レドックス対による酸化状態色素の還元速度に対しては見られた。また酸化状態色素の還元速度は今回調べた範囲では酸化チタンより酸化亜鉛の方が速くなる結果がほとんどであった。またルテニウム錯体においてはアニオン性配位子の構造と電解質のカチオンが相互作用し、電子寿命に影響を与えることが分かった。上記のように、今までの結果から予測される結果と大きく異なる結果が得られ、電子移動機構に関する理解と新たな太陽電池の設計指針が得られたためこの点では計画より進んでいると評価した。一方で、測定方法の開発に対しては昨年度判明した問題点を解決できておらず、既存の測定方法を使っている現状では測定に時間がかかっているため、全体としてはおおむね順調であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
酸化状態色素の還元速度が酸化物で異なる理由を明らかにする。酸化物中の電子による還元速度については酸化物中の電子の移動度または拡散係数との相関を調べ、また色素と酸化物とのカップリングの影響について調査する。またカップリングに関しては新たに合成した色素を用いて検証する。レドックス対による還元速度が酸化物で異なる点に関しては、吸着量の違いや誘電率の違い、電子軌道の違いなど、いくつかの仮説に対して検証を行う。色素と電解質中のカチオンとの相互作用に関しても酸化物による影響も踏まえて詳細に検討していく。測定方法の開発は他の研究項目の進展状況を優先する中で、開発する。有機色素の1つであるD35は特に酸化チタン以外の酸化物で開放電圧の向上に対して高い効果があるが、その理由と、設計指針の作成に引き続き取り組む。
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