研究課題/領域番号 |
17H03103
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
夫 勇進 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (00350489)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子ドット / 一重項分裂 / 太陽電池 |
研究実績の概要 |
多くの有機一重項分裂(SF)材料では、生成した(2倍の)三重項励起子は一重項励起子の半分のエネルギーになるため、LUMO準位の浅いC60誘導体とでは電荷分離が困難であった。2倍に増えた三重項励起子を電流としていかに外部回路に取り出すかは、極めて重要な課題である。無機量子ドット(QD)は、サイズ制御によりエネルギーギャップの調整が容易であり、様々な有機SF材料に合わせたエネルギー準位の整合、三重項励起子捕集が可能である。また、無機材料の特徴(高誘電率)を活かした高効率な電荷分離が可能である。無機QD自身も多重励起子生成(MEG)をするため、有機SF材料との組み合わせにより広範囲の紫外可視吸収帯でのMEGが可能である。無機QDとSF性有機半導体を組み合わせた、ハイブリッド型太陽電池の塗布プロセスによる作製とその超高効率化を目的とする。 開放端電圧(VOC)の向上を狙い、高いS1、T1を有するワイドギャップ有機SF材料を合成する。既存有機SF材料の中ではテトラセンのT1 1.25 eVが最も高く、それ以上の値を目標にする。ジケトピロロピロール、イソインディゴは、量子化学計算によりS1 > 2 T1を満たすT1準位を有し、SF材料の中心骨格として期待できる。蒸着性、成膜性を考慮し周辺置換基を設計し、系統的に誘導体を合成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実OPV素子では限られた縮合多環系分子においてのみ、SF特性の発現が報告されており、新しいSF材料の報告例は極めて少ない。代表的なSF材料であるペンタセンのT1 = 0.86 eVよりも高いT1が期待される材料を検証した。本研究で計算をしたジケトピロロピロール(DPP)は、TD-DFT計算により、S1 = 3.20 eV、T1 = 1.42 eVと見積もられ、SF発現のエネルギー条件を満たし高い励起三重項準位を有することから、SF性材料の基本骨格として有用であると考えられる。DPPを基本骨格とした8個の材料を量子化学計算より検証した。ナフタレン・メチルナフタレンの置換位置およびメチル基の有無により、中心部位とナフタレンとの二面角を変化させている。全ての分子において、S1 ≧ 2 T1の関係をほぼ満たしSF発現が期待された。ナフタレン置換位置が2-位より1-位での分子が高い励起三重項準位を有する傾向を示した。またメチルナフタレンを有する分子、N-位にメチル基を有する分子でより高い励起三重項準位を有した。これらは全てDPP部位とナフタレン置換基間の二面角との相関があり、ねじれが大きい程高いエネルギー準位を示している。これらの8個分子の中で合成難易度を考慮し、量子化学計算より選定した4つのDPP誘導体を合成した。真蒸着膜および溶液の吸収・発光スペクトル、発光寿命を測定した。化合物ごとに異なる溶解性が水素結合に起因している事を単結晶構造解析により明らかにした。3つの化合物において高い消光、極めて短寿命の蛍光寿命を示しSF特性を示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
一重項分裂材料には、前年度までに開発した、代表的な一重項分裂材料であるペンタセンのT1準位0.86 eVよりも高いT1を有する材料を選定する。一重項分裂材料を積層したPbS量子ドット膜の蛍光強度の磁場依存性を測定し、一重項分裂材料からPbS量子ドットへの励起三重項エネルギー移動を検証する。 また、シリコンのバンドギャップ(1.2 eV)よりも高いT1を有するワイドギャップ有機SF材料を開発する。1.2 eVに相当するエネルギー準位を有する無機半導体材料との複合形成を試み、高いエネルギーでの一重項分裂材料から無機半導体材料へのエネルギー移動を検証する。有機無機複合形成体を利用した太陽電池デバイスの作製にも着手する。
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