自然界での動植物に見られる鮮やかな構造色は、毒性を示す色素や顔料が不要で色褪せがなく、従来の色素色にはない独特の光沢を有する。本研究では、自然界での構造色発現においてメラニンが重要な役割を担っていることから創発し、メラニンの模倣体のポリドーパミンをシェル層として作製したコアーシェル型の人工メラニン粒子を独自材料とし、構造色を基盤とするインク状色材開発の学理と技術革新に貢献することを目的として研究を実施した。 昨年度までに、異方性を有する楕円体状の人工メラニン粒子、階層構造を有する中空状の人工メラニン粒子、ポリドーパミンに変えてポリノルエピネフリンをシェル層とする人工メラニン粒子,ならびに粒子表面にポリマー鎖を付与したヘアリー状の人工メラニン粒子をそれぞれ作製し、それらの集積によって発現する構造色の特徴についてまとめた。今年度は、人工メラニン粒子を集積後に光硬化樹脂で硬化し、溶媒によってコア部のポリスチレン部位を除去することで、人工メラニン粒子を素材とする逆オパール材料を作製した。得られた材料は機械的強度に優れ、人工メラニン粒子の特徴である光吸収能を有することから視認性の高い構造色を発現し、溶媒応答センサーとして有用であることがわかった。また、メラニン前駆体としてポリチロシンを被覆したコアーシェル粒子を新たに作製した。この材料は光吸収能を示さないが、光を照射すると共役系が伸長しメラニン化することを見出した。本技術を利用することで、外部刺激によるメラニン化に伴い、構造色の可視化を制御可能な新たなインクとしての応用展開が期待される。 以上の研究を通して人工メラニン粒子の形状や組成が構造発色に与える基礎的知見を蓄積し、かつ応用展開に向けた道筋を見出すことができ、構造色を基盤とするインク状色材の開発に向けて重要な知見を得ることができた。
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