研究課題/領域番号 |
17H03116
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
南 秀人 神戸大学, 工学研究科, 教授 (20283872)
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研究分担者 |
鈴木 登代子 神戸大学, 先端融合研究環, 助教 (40314504)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高分子材料合成 / 高分子微粒子 |
研究実績の概要 |
平成30年度は主に以下の内容を行った。 1)昨年度見出した“シリンダー状”ポリスチレン粒子について,その生成機構を詳細に検討した結果,これまで考慮されてこなかった水溶性高分子のポリビニルピロリドンがポリスチレン粒子の可塑化に影響し,一定方向に撹拌される流体応力がその変形に寄与していることを明らかにした。また,ポリスチレンだけでなく,他の汎用ポリマーであるポリメタクリル酸メチル粒子についても同様に変形することを見出し,その一般性を示し,化学雑誌のトップジャーナルであるAngew. Chem. Int. Ed.に掲載された。さらに,それらシリンダー状粒子の粒子構造体としての可能性を探るため,ピッカリングエマルションの粒子乳化剤としての吸着挙動を調べたところ,吸着界面において,明らかに球状粒子とは異なる,その形状に起因する非常に得意な粒子構造体を形成することを見出し,形状制御によるビルディングブロック粒子の可能性を示した。 2)これまで,検討してきた真球状ヤヌス状ビルディングブロック粒子の構造において,相互作用点(粒子表面比)を変化させたところ,同面積のヤヌス粒子は一次元鎖状構造をとるのに対して,同ヤヌス粒子分散体に数比で1/10の体積比の違う(1:2)ヤヌス粒子を混合したところ,粒子構造体の枝分かれが明らかに多くなった,分岐(架橋)粒子構造体がえられた。さらにこの1:2のヤヌス粒子のみの分散体では,デンドリックな粒子構造体を観察することを明らかにし,これらは幾何的な予測と一致していた。これらビルディングブロック粒子としてのヤヌス粒子の面積比については,超薄切片法によりその構造を明らかにすることが必要不可欠となるが,平成30年度導入したクライオミクロトーム静電気防止装置により,非常に効率的にデータを収集することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した平成30年度の研究計画において,1)シード分散重合が困難な組合せや溶媒放出法の適切な溶媒が無い場合,シラス多孔質ガラス(SPG)膜乳化装置を用いて粒子径が均一な液滴を作製し,単分散な複合粒子を合成し,ビルディングブロック粒子の作製を試みる。2)検討の中で作製してきたビルディングブロック粒子の構造と実際,それより得られる水素結合による粒子構造体との相関を観察し,さらにその相互作用点を明らかにする。3)複合微粒子のゼロ次構造の制御をもとにより複雑な相互作用点を持った複合粒子の合成をおこなう。4)二点かつ同表面積をもつヤヌス状ビルディングブロックについては,鎖状構造を持つことを明らかにしてきたが,さらに,面積を変えることにより相互作用点が実質増加し,デンドリックな構造や意図的な網目構造体の相関について幾何的予測と実験的結果により検討するであった。1)については現在も進行しており,結果が出つつある。2),4)については,実際に異なる分散安定剤を表面に有するヤヌス粒子において,その表面積比が違う粒子の合成に成功しており,また,それらヤヌス粒子より得られる微粒子構造体は,同面積のヤヌス粒子との混合する割合により,幾何的予測と一致して,架橋構造から,デンドリックな構造に移行することを実験的に明らかにした。3)については複雑な相互作用点を持つ粒子については,まだ着手できていないが,その代わりに昨年度見出した非常に得意なシリンダー状粒子について詳細に検討を行い,さらに,その粒子が粒子構造体のビルディングブロック粒子となり得ることを示しており,研究計画は順調に推移しており,十分な研究成果と知見を得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては,具体的に以下について検討をおこなう。1)素結合性を有する二種類の分散安定剤を有するヤヌス粒子の会合挙動において,ヤヌス状粒子は,二官能性モノマーの逐次重合と非常に良く似た挙動を示すことを明らかにしている。これらをさらに発展させ,分散安定剤の分子量や作用点の大きさを変化させた場合の会合挙動が,これまで研究されている分子オーダーでの反応速度定数や活性化エネルギーなどに相関するかを検討することにより目に見える分子モデルとしての可能性を明らかにする。2)これまで,上記のヤヌス粒子において実際に会合した数平均会合数は6.02(最長40程度)であり,一次元鎖状構造特有のマクロ特性を発現するには不十分であった。これはミクロンサイズであるためブラウン運動が制限されたためであり,これらを克服するためにサブミクロンサイズでのヤヌス粒子の合成を検討する。さらに得られた粒子の会合挙動はさらに長くなると考えられ,分散系のマクロ物性(ゲル化など)についても検討を行う。3)昨年度新たに見出した「シリンダー状」粒子についてのコロイド構造体について,検討をおこなう。これまで球状の会合体を検討してきたが,形状由来の会合挙動についてもあきらかにする。4)3年間の検討の結果から,分散安定剤を有する高分子微粒子合成法の系統化,複合粒子のモルフォロジー制御法の確立,さらにそれら粒子をビルディングブロックとした粒子構造体の制御法および,形状による会合挙動など機能化について総括するともに新たな微粒子合成研究課題の探索を行う。
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