研究課題/領域番号 |
17H03119
|
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
陸川 政弘 上智大学, 理工学部, 教授 (10245798)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ブロック共重合体 / ミクロ相分離 / 高次構造 / 配向性 / イメージングプローブ / 酸素透過性 / 燃料電池 / 自己拡散係数 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続き系統的なブロック型共重合体の合成とその構造解析を行いつつ、新たに物質輸送性の支配因子の解明を行った。昨年度開発した超高感度透過型電子顕微鏡観察を深化させ、3次元観察を可能にした。その結果、ブロック型共重合体のミクロ相分離構造の観察の精度が向上し、奥行き方向の連結性も観察できるようになった。シリンダー構造を有するブロック型共重合体では、奥行き方向でもその構造が維持されており、この高次構造形成が有効なプロトン伝導性の発現因子であることが明らかになった。また、この3次元超高感度透過型電子顕微鏡観察とX線立体小角散乱測定を組み合わせることによって、定量的にミクロ相分離構造の配向性を測定することが可能になった。 イメージングプローブによる水の自己拡散係数の測定では、膜面方向と膜厚方向の測定が可能になり、高次構造と水輸送の関係が明らかになった。高次構造の配向性に対応して、膜厚方向の水輸送性が高いことが明らかになったが、その拡散係数の異方性は高次構造の配向性を反映していないことも明らかになった。これは、現状のシリンダー構造に欠陥が存在すること、またシリンダー部分が水を輸送しない疎水性ブロックであり、その周囲が水を輸送する親水性ブロックであるため、膜面方向にも水の輸送パスが形成しているためと推察される。 触媒層中のアイオノマーであるCLIの酸素透過性を評価するために、限界電流密度法を用いた。種々のブロック型共重合体を用いた膜電極接合体を作成して、触媒層の酸素輸送を測定した。その結果、イオン交換容量が低いほど、触媒層中のCLIの酸素透過性が高いことが明らかになった。ブロック型共重合体の化学構造(ブロック比、イオン交換容量、分子量が異なる)と酸素輸送性の関係を調査した結果、化学構造は酸素輸送性の支配因子ではないことが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で開発したブロック型共重合体は、主鎖骨格が剛直なポリパラフェニレンではありながら、明瞭なミクロ相分離構造を持ち、シリンダー状、ジャイロイド状、ラメラ状、球状など、ブロック組成を変化させることでミクロ相分離構造を制御できることが分かった。脂肪族系のブロック型共重合体では実現できていたものではあるが、芳香族系のブロック型共重合体では初めての結果である。また、このブロック型共重合体は燃料電池の電解質材料に必要な機能をすべて兼ね備えており、その高次構造の形成により多くの機能を制御できることを明らかにした。 解析方法においても昨年のイメージングプローブによる3次元解析に加え、3次元の超高感度透過型電子顕微鏡観察、X線立体小角散乱測定、限界電流密度法を確立し、本分野のみならず他分野への応用も可能であることを示すことができた。 国内外の学会発表における研究成果の発信も昨年同様に十分にできており、ブロックおよびグラフト型共重合体の精密合成と高次構造解析に関連した論文を定期的に投稿している。以上のことを鑑み、本研究は当初の計画以上に進展していると自己判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、主に燃料電池の触媒層中の物質移動に着目した検討を行う。触媒層中のアイオノマー(CLI)はナノオーダーの薄膜であり、バルクと構造が異なる。CLI中の現象を直接観察、または測定することは困難であるので、CLIの輸送性に関しては、酸素透過のシミュレーションと系統的に合成した新規材料の特性評価(アイオノマー抵抗、電荷輸送抵抗、酸素輸送抵抗)を並行に行うことで、その物質輸送性を明らかにする。さらに、CLIでの利用ではナノオーダーの微粒子の形成・分散からの薄膜形成が予想されるので、光散乱法や高分解能TEMを用いて本材料の希薄溶液中の凝集挙動と基板への吸着挙動を調査する。 本研究により最適化された炭化水素系(HC)電解質膜とHC電解質CLIを用いたMEAを作成し、PEFCによる評価を行う。今までの研究では、電解質膜をNafion系の電解質膜からHC電解質膜に変換した例はあるが、CLIをHC電解質材料に置き換え、Nafion系MEA同等の発電特性を得られた研究例は、我々の報告のみである。この結果を本研究によりさらに発展させ、Nafion系MEAより高い発電特性、特に高温低湿度下での発電特性の向上を図る。 ガス輸送性の機構解明の結果をもとに、HC電解質膜にはガス透過性が低く、柔軟な機械特性を有する材料を適用し、CLIにはガス輸送性が高く、微粒子形成によりマクロな物質輸送(水、ガス)を可能にする材料を適用する。この際、ミクロ相分離構造と物質輸送性の関係も利用して、プロトン伝導性に有利なミクロ相分離構造を有する化学構造、ブロック長、または組成を適用する。
|