研究課題/領域番号 |
17H03121
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
増野 敦信 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (00378879)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ビッカース硬度 / アルミネートガラス / 充填密度 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,これまでのガラスの常識を超える機械的強度をもつ新たな材料,すなわち「本質的に」硬いガラス,割れないガラス,そして,硬くて割れないガラスを開発することである.ガラス合成手法として無容器法を用いることで,従来ガラス化しないと思われていたような組成(網目形成酸化物を含まない組成)において,新規高充填密度ガラスを合成し,その機械特性を多角的に評価する. 平成29年度はまず,これまでに我々がガラス化範囲を報告しているR2O3-Al2O3二元系(Rは希土類)ガラスの中で,最も希土類を変更できる32R2O3-68Al2O3ガラスについて,弾性率やクラック抵抗が希土類依存性を示すことを明らかにした.また,超硬ガラスであるAl2O3-Ta2O5二成分系に第三成分を添加することで,ガラス化範囲の拡大が実現された.興味深いのは,Al2O3の代わりにGa2O3を,そしてTa2O5の代わりにNb2O5を添加したときよりも,Y2O3を添加したときの方が,ガラスの安定性は格段に向上したことである.得られたガラスについてはガラス転移温度,密度,弾性率,硬度,クラック抵抗などの基本的な物性データを取得し,その組成依存性を明らかにした.Raman散乱スペクトルからは,Al2O3-Ta2O5ーMOx三元系において,局所構造に大きな変化がないことがわかった.これは,適切に添加元素を選択することで,ガラス構造における不必要な乱れを抑制できることを意味する. さらに,La2O3-Ga2O3系ガラスの新規合成にも成功した.得られたガラスは紫外から赤外まで優れた光透過性を有していた.今後機械特性を測定し,硬いガラスとして評価を進める.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,特にAl2O3を主成分とするガラスについて重点的に組成開発を行った.これまでに,R2O3-Al2O3二元系(Rは希土類)では,希土類イオンのイオン半径に依存して機械特性が単調に変化させられることを見いだした.中でもEr2O3-Al2O3やTm2O3-Al2O3ガラスは162GPaに達するヤング率を示す超高弾性率ガラスであることがわかった.このイオン半径依存性からは,ガラスの局所構造を適切に制御して弾性率を制御する道筋が見つかったことを意味する. さらに超高弾性率を有する54Al2O3-46Ta2O5ガラスをベース組成として,三元系へと組成を拡張した.第三成分として,Nb2O5,Ga2O3,Y2O3を試したところ,ガラス化範囲の大幅な拡大を確認した.いくつかの組成では,浮遊していなくてもガラス化するものが見つかっていることから,今後の大型化が期待できる.新たに合成した三元系ガラスについて,マイクロビッカース試験機を用いて硬度を計測した.現時点で三元系に組成を拡張したことによる硬度の減少は確認されていない.分光学的手法を用いた構造解析から,ガラス構造における変化は小さいことがわかった.ガラス形成能の向上,ガラス転移温度の低下,ガラス構造の安定性などを考慮すると,本研究で開発した新しいガラス系は,優れた機械的強度を保持したまま,より実用材料へと近づいたといえる. さらに,La2O3-Ga2O3系ガラスの新規合成にも成功したが,このガラスは紫外から赤外まで優れた光透過性を有していた.今後機械特性を測定し,硬いガラスとして評価を進める.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度において,Al2O3-Ta2O5二元系に対して第三成分を添加することで,数多くの新しいガラス組成を見いだした.その中には,極めてガラス化しやすい組成や,劇的なビッカース硬度の増大を示す組成などが見つかっている.本年度はこれらニューガラスの機械特性をさらに詳細に調べるとともに,割れにくいガラスであるAl2O3-SiO2二元系と組み合わせることで,破壊靱性が向上したガラスの実現を目指す. 機械特性については,大きな荷重を印加できるビッカース試験機を利用して,ビッカース硬度,クラック発生確率,破壊靱性を見積もる.レーザー顕微鏡で圧痕を観察して二次元表面プロファイルを取得し,圧子によってくぼんだ体積と,盛り上がった体積の比から,緩和機構が高密度化なのか,剪断流動なのかを判定する. 本研究で得られたガラスは全て可視域で透明である.このことは可視域での応用上,非常に有利に働く.したがって得られたガラスの光学特性を調べることは重要となる.30年度は小さなガラス試料でも測定可能な高感度紫外・可視分光光度計を購入し,光透過性についてのデータを取得する. ガラスの構造解析の点では,SPring-8などの量子ビーム施設を利用して,回折実験,吸収分光実験等を行う.さらに分子動力学シミュレーションによる計算機実験として,まずは回折実験から得られたT(r)を再現するような,数千から数万原子程度の三次元構造モデルをいくつか作製する.ここからカチオン-酸素間の原子間距離や酸素配位多面体の形状などの局所構造情報を抽出し,回折実験以外の実験データとも矛盾しない信頼性の高い構造モデルを決定する. これまでに得られた成果については現在論文にまとめているところであり,本年度中の掲載を目指す.
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