本研究の目的は,これまでのガラスの常識を超える機械的強度をもつ新たな材料,すなわち「本質的に」硬いガラス,割れないガラス,そして,硬くて割れないガラスを開発することである.ガラス合成手法として無容器法を用いることで,従来ガラス化しないと思われていたような組成(網目形成酸化物を含まない組成)において,新規高充填密度ガラスを合成し,その機械特性を多角的に評価した. Al2O3-Ta2O5二元系に第三成分を添加した系での機械特性と局所構造の相関を見いだすことができた.通常のガラスの場合,追加成分は添加という形でそれ自身の局所構造をとるようにガラス中に入る.一方でAl2O3-Ta2O5系に追加したNbはTaと,GaはAlと同様の局所句構造をとることが実験結果から推定された.これは添加ではなく置換が生じていることを意味しており,これら高充填密度ガラスが通常のネットワークガラスとは異なったガラスの成り立ちを有していることが推察される. 割れにくいガラスであるAl2O3-SiO2二元系にZrO2を添加することで,これまでで最も硬いガラスの合成に成功した.ガラス形成能も格段に向上し,今後の大型化が期待できる.Al,Si,Zrについて,NMRやXAFSを利用して局所構造解析を行った結果,ZrO2含有量増加とともに,Alの配位数やZrの配位数が増大することが確認された.一方でSi周囲にはあまり変化はなく,ほぼ架橋酸素のみの4配位であった.以上のことから,ZrO2添加に伴い,ガラス構造がより稠密になっていくことがわかる.弾性率が大幅に増加したことを,原子レベルで説明することができた. La2O3-Ga2O3系ガラスについては,La2O3が増えると充填密度が低下し,それに伴って硬度や弾性率も低下した.
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