再生可能エネルギーの利用を拡大するために、二次電池を安全・安価なエネルギー貯蔵媒体として利用することが強く求められている。現行広く利用されている二次電池のなかで、最も高いエネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池は可燃性のある有機溶媒が使用されており、安全性の点で課題がある。そのため、水溶液を電解質として利用する水系二次電池が検討されているが、水溶液の大きな問題点として、安定して作動する電位領域である電位窓が狭いことが知られている。そこで、本研究では電極反応に無関係な支持電解質として有機スルホン酸塩の添加を利用し、水溶液電解質の電位窓の拡大とその発現メカニズムの解明を目指した。複数の有機スルホン酸塩に電位窓が拡大することが見いだされ、普遍的な現象であることが確認された。また、有機鎖長が短い有機スルホン酸がより拡大効果が大きいことが分かった。電位窓拡大のメカニズムを明らかにするために、表面プラズモン共鳴測定および放射光X線を用いた反射率測定を有機スルホン酸塩水溶液と電極界面の観察に用い、電位印可条件下で有機スルホン酸アニオンが電極表面近傍に凝縮することが見いだされた。これらのことから、添加した有機スルホン酸アニオンが凝縮し、電極近傍でのイオン濃度が異常に上昇して水分子の活量変化が起こり、酸化耐性が向上したことが示唆された。本研究で得られた知見は、溶液バルクの性質ではなく、電極近傍での局所的なイオン濃度や構造を制御することによって、水溶液の分解耐性を向上することができるという新たな視座を提供し、二次電池をはじめとしてデバイス応用の観点からも有益な成果であるといえる。
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