研究課題/領域番号 |
17H03135
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
鐘本 勝一 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (40336756)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電子スピン共鳴 / ESR / EDMR |
研究実績の概要 |
本年度は、まずポリマー型半導体を中心にESR電流が素子の動作状況とともにどのような変化を遂げるかを調べた。固定したホール注入電極に対して、仕事関数が異なる3種の電子注入側電極を用いてそれぞれESR電流強度を調べると、電子注入が効果的になるほどESR電流の発生割合が増加することがわかった。これはESR電流の発生源が、ホールと電子の再結合から生じる電子正孔対であることを実証している。さらに、その信号強度の動作バイアス依存性を調べると、バイアス増加により一旦上昇した後に速やかに減少することがわかった。同時に、発生キャリヤの情報をその分光強度から調べたが、バイアス増加により上昇するのみであった。このことから、バイアスによりキャリヤ数は増加するものの、電子正孔対は内部電界の増加により解離することが明らかになった。さらに、ESR電流と磁場効果の関係についても調べた。その結果、ESR電流と磁気伝導のバイアス依存性が強く相関することがわかった。これは磁気伝導効果の起源が電子正孔対であることを示すと同時に、磁気伝導効果がバイアス増加に伴われる電子正孔対の解離により減少することを顕著に示している。 以上の実験に加え、ESR電流とスピン流の関係についても調べた。最近スピン流は、強磁性共鳴(FMR)によるスピンポンピングにより常磁性素子内で発生・伝播し、界面に逆スピンホール効果による起電力を発生させることがわかっている。今回常磁性素子層に有機半導体を利用し、素子に電流を流した際のFMRポンピングの影響について調べた。これはFMR誘起電流を調べることに相当する。その結果、ポンピングにより電流の発生が確認された。従来のスピン流ではポンピングによるキャリヤ注入は想定されないが、今回の結果は注入の発生を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回主としてESR電流の起源となる電子正孔対の基礎的物性を調べたが、その物性解明が非常によく進んだ。また当初の計画では、酸素環境下でのESR電流の性質を明らかにすることであったが, 実際に酸素の影響も明確にできた。さらにスピン流の物性への展開も実現でき、これまでに報告がない新たな結果も引き出せた。それに加え、ESR誘起電流の計測やスピン流計測を行うための新規測定系の開発も多く行えた。以上により、本年度の進歩は元々の想定を超えるものである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度立ち上げた素子作成系や測定系を生かし、それらを発展させた実験研究を展開する。まず、ESR電流を増強させる系として、改めて酸素濃度の影響が重要とわかったので、その結果を追求し、最適な試料系を確立させる。その確立後は、ESR電流を利用した新たな展開として、新規メモリ素子への展開やセンサーへの活用を行うための基盤技術の開発を行う。さらにはESR電流の利用として、近年注目度が高い熱活性型遅延蛍光系ELに対して、ESR電流計測の有用性を実証する。 さらにはこれまで計測が行えているスピン流計測について、新規購入したマイクロ波アンプを活用し、時間分解計測の測定系を構築し、実際にダイナミクス計測を行う。特にスピン流発生によりキャリヤ注入が起こっている可能性を示唆する結果を得ており、その正否を本年度は明らかにする。開発する測定系は新規なものであり、Jeol Resonance株式会社の鈴木氏と共同にて、他では実現されていない世界最先端のスピン流測定系を実現させる。
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