研究課題/領域番号 |
17H03142
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
赤坂 大樹 東京工業大学, 工学院, 准教授 (80500983)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | DLC膜 / 耐熱性 / 昇温脱離 / 脱離ガス分子 / 熱分解 |
研究実績の概要 |
2018年度はダイヤモンド状炭素(DLC)膜の熱分解過程を明らかにするために2017年度に構築した軽元素用の昇温脱離分子測定システムを使用して,DLC膜から熱分解に伴い放出されるガス分子を計測し,熱分解過程を評価した.DLC膜として,フィルタードカソーディックアーク(FCVA)およびスパッタリング法によりsp2/sp3炭素結合比の異なる3種の非水素化DLC膜を,パルスプラズマを用いて4つの炭化水素ガスを原料に用いて構造の異なる6種の水素化DLC膜を準備した.これらのDLC膜の構造をsp2/sp3炭素結合比はX線吸収微細構造(NEXAFS)により,水素量をグロー放電発光分析法(GD-OES)により評価し,構造の3元図上を網羅するDLC膜が作製できている事を確認した.これらのDLC膜を10-6Pa以下の高真空下で赤外線により1000℃まで加熱し,その際に放出される分子の質量数と放出が開始される温度とを比較した.その結果,非水素化DLC膜に比べて水素を含むDLC膜の熱分解温度が低く,更に放出分子の分子量が低いことが示された.特に水素を最も多く含むDLC膜では350度程度から水素の放出が継続的に発生し,一方で非水素化DLC膜では質量数44以上の大きな分子の脱離が観測された.これらより,膜の構造の内,特に水素量が多いDLC膜の耐熱性が低く,文化過程に膜中の水素が大きく関与することが示唆された.このため,水素導入下での反応の評価についても2019年度に実施する予定である.これらの反応は昇温速度に依存していることが示唆された為,昇温速度に対する放出ガス分子の開始温度および放出ガスの分子量について2019年度に並行して研究を実施する予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は2017年度に構築した軽元素用の昇温脱離分子測定システムを使用して,ダイヤモンド状炭素(DLC)膜から熱分解に伴い放出されるガス分子を計測し,熱分解過程を評価した.フィルタードカソーディックアーク(FCVA)およびスパッタリング法により基板への印加バイアス等を調整し,sp2/sp3炭素結合比の異なる3種の非水素化DLC膜を,パルスプラズマCVD法により4つのC:H比の異なる炭化水素ガスから6種の構造の異なる水素化DLC膜を作製し,sp2/sp3炭素結合比と水素量を評価した.これらのDLC膜を10-6Pa以下の高真空下で赤外線により15℃/minで1000℃まで加熱した.その際,放出される分子の質量数と放出開始温度を得た.水素化DLC膜の放出開始温度は最も低い試料で約350℃と低い事が示され,放出分子の分子量も低い概ね質量数50以下が多いことが示された.一方で非水素化DLC膜は800℃以上でも熱分解しない試料があり、放出分子の質量数も44以上のものが多く観測された.これらより,DLC膜の構造の内,特に水素量が多いDLC膜の耐熱性が低く,分解過程に膜中の水素が大きく関与することが示唆され,更に昇温速度により放出される分子量が異なることも分かってきた.このため,水素導入下での加熱による放出分子の評価,昇温速度に対する放出ガス分子の開始温度および放出ガスの分子量についても2019年に実施する予定とした.
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度の結果を受け,分解過程にDLC膜中の水素が大きく関与することが示唆されたことから,水素中での加熱による放出分子の評価を実施予定である.当初予定していた,酸素,窒素,大気等の反応性環境下での熱分解過程の評価に加え,水素の導入による膜表面からのエッチングなどの影響を評価していく.本実験は大気圧の各ガスを四重極質量分析器に直接導入できない為に質量分析器室と熱脱離用反応室間にピンホール付のセパレート用真空フランジを設置して,真空ポンプをイオンポンプ等の後方排気用接続部に接続し,作動排気系を構成し,各種ガスの大気圧下でのDLC膜の反応に伴う放出ガス分子を質量分析から特定する予定である.又,2018年度の研究より,昇温速度により放出される分子量が異なることが示されたことから昇温速度に対する放出ガス分子の開始温度および放出ガスの分子量の評価についても実施する予定である.本研究の工業的へ寄与を念頭に,当初の予定通り,耐熱性向上のためにsp2結合性炭素成分の熱分解による分解温度の上昇を狙い,多原子価イオンを生成できるアンチモン等の半金属材料をDLC膜内に導入し,膜の耐熱温度が向上するかを検討する.特に非水素化DLC膜の耐熱性が高いことが明らかとなったことから,非水素化膜に多原子価イオンを導入した膜を作製して,膜の分解挙動を評価する。又, 科研の国際共同研究加速基金との相互補完による共鳴的な効果を期待し,王立タイ放射光科学研究所においてX線吸収微細構造(NEXAFS)と光電子顕微鏡(PEEM)との組み合わせにより2次元的にも評価する.この結果よりsp2,sp3の両結合性炭素および水素のどの成分が何℃で反応をどのように進行するかという学術的に重要な情報を得る.
|