研究課題/領域番号 |
17H03168
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
渡部 正夫 北海道大学, 工学研究院, 教授 (30274484)
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研究分担者 |
真田 俊之 静岡大学, 工学部, 准教授 (50403978)
小林 一道 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (80453140)
藤井 宏之 北海道大学, 工学研究院, 助教 (00632580)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 液滴衝突 / 液膜流れ / 接触線移動 / 不安定現象 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,液滴の固体面衝突直後に射出される非常に薄い高速液膜流れの不安定現象に及ぼす周囲気体の効果を明らかにし,壁面に沿う安定な高速液膜流れを実現することである.本年度は,以下の4項目について研究を行った. 1.高速度カラー光干渉計による気液界面計測システムの構築:液滴の固体面衝突直後に射出される非常に薄い高速液膜流れの不安定現象を観察するためには,非常に薄い膜の厚さを,高空間解像度・高厚さ方向解像度・高時間解像度で観測することが必要不可欠である.カラー高速度カメラと長距離顕微鏡レンズを組み合わせることにより高速度カラー光干渉計による気液界面計測システムを構築した. 2.異なる接触角を有する固体表面への液滴衝突の観察:異なる接触角を有する固体表面への液滴衝突および衝突後の流れ,特に液滴衝突直後の高速液膜流れの不安定性を観察した.衝突直後に形成させる液膜の速度を変化させ,異なる濡れ性を有する固体表面におけるスプラッシュ発生速度閾値を検討した. 3.減圧チャンバ内での高速液滴衝突:周囲気体圧力の効果を検討するために,減圧チャンバ内を用いて,液滴が固体表面に衝突する際の圧力を10kPa-1気圧の範囲で制御した.減圧チャンバ内で高速で上方に射出された衝突板を,自由落下する液滴に衝突させることにより,液滴衝突速度を5m/s-20m/sの範囲で変化させ,射出液膜速度が液膜不安定性に及ぼす効果を検討した. 4.固体表面衝突後の液膜不安定性に及ぼす周囲凝縮性気体の寄与: エタノール蒸気中でエタノール液滴衝突を観察し,固体表面衝突後に射出される高速射出液膜の進展に及ぼす周囲凝縮性気体の相変化の寄与を検討した.また,分子気体力学を用いて,周囲凝縮性気体の非平衡効果について検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は以下の4項目について研究を行った.それぞれの研究項目について得られた本年の重要な成果を以下に示す. 1.高速度カラー光干渉計による気液界面計測システムの構築: 固体表面と液滴との衝突時に形成される接触線の初生について検討を行った.衝突速度液滴衝突時に液滴と固体表面との間に取り込まれる薄い気膜に着目して観察を行ったが,定量的な気膜厚分布を取得することはできなかった.これは,光学系の位置決め等の精度が不十分であること,実験データから膜厚分布を算出する手法およびアルゴリズムが不十分であることが原因であると考える. 2.異なる接触角を有する固体表面への液滴衝突の観察:異なる濡れ性を有する固体表面における高速液膜の接触線近傍の不安定性を検討したが,定量的な評価を導くに足るデータを取得することができなかった.これは,光学系を含んだ撮影システムの調整が不完全であり,十分なコントラストを有する画像が得られなかったこと,衝突時の液滴形状の再現性が低いこと,固体表面が完全な剛体ではないことが原因であると考える. 3.減圧チャンバ内での高速液滴衝突:高速水液滴の衝突の場合においても,prompt splashの発生についてXuらのモデルが適切に表現できることを示した.prompt splash発生前に観察される ephemeral splashは,発生閾圧力が衝突速度に寄らずほぼ一定であるという重要な性質を有することを明らかにした. 4.固体表面衝突後の液膜不安定性に及ぼす周囲凝縮性気体の寄与: エタノール蒸気中でエタノール液滴衝突を観察した結果,エタノール蒸気中では空気中に比較してsplash発生が抑制されることを示した.気液界面の境界条件に,分子気体力学から得られる完全凝縮の境界条件を課すことにより,液滴が衝突する際に気体中に発生する圧力は,気体の凝縮効果によって有意に減少することを示した.
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今後の研究の推進方策 |
構築された装置を用いて,引き続いて高速液膜流れの不安定現象に及ぼす周囲気体の効果を検討する. 1.高速度カラー光干渉計による気液界面計測システムの構築: 構築した計測システムを用いた気膜観察では,カラー光干渉縞を観察することには成功したが,膜厚分布を定量的に評価することは出来なかった.計測システムの光学系を抜本的に再検討することにより高信頼性化を図ると共に,データ解析アルゴリズムを改良し高精度化を図り,大気中で自由落下しガラス表面に衝突する水液滴から発生する高速射出液膜固気液三相接触線近傍の自由界面の不安定性を定量的に評価する. 2.異なる接触角を有する固体表面への液滴衝突の観察: 完全に制御された液滴生成を行うために,シリンジポンプを用いた液滴生成装置を開発し,液滴形状の再現性の大幅な向上を図る.光学系・光源を抜本的に再検討することにより,十分なコントラストを有する接触線近傍の気液界面画像を得る.シリコンラバー等の高分子を用いて衝突実験を行い,固体表面の表面エネルギー・液膜進展速度・接触角等と液膜不安定性との関係を考察する. 3.減圧チャンバ内での高速液滴衝突: ephemeral splash発生の物理モデルを構築するために,固定表面の粗さに着目して実験を行う.また,表面粗さ程度の代表長さの流れで重要となる希薄気体効果についての理解が必要となるため,分子気体力学を用いた解析を行う. 4.固体表面衝突後の液膜不安定性に及ぼす周囲凝縮性気体の寄与: エタノール蒸気中でエタノール液滴衝突を観察した結果,衝突速度3m/s程度では周囲エタノール蒸気圧力が大気圧程度ではsplashが観察されないことが示された.不安定性が発現する圧力の理論値を求めるために,分子気体力学とBoltzmann方程式を用いて,高速で移動する界面近傍に発生する圧力が,凝縮係数によってどのように変化するかを検討する.
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