研究課題/領域番号 |
17H03169
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
城田 農 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (40423537)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 液滴 / 核沸騰 / 遷移沸騰 / ライデンフロスト沸騰 |
研究実績の概要 |
沸騰熱伝達における臨界熱流束を制御できることは、発電プラントからエレクトロニクス集積回路に至る様々な熱伝達効率を格段に上げることへ繋がる。しかし、相変化を伴う熱・ 物質輸送を扱う極めて複雑な流れ場ゆえ、臨界熱流束のメカニズムは未だ明らかにされていない。本課題の目的は、液滴衝突による加熱 平板の冷却を対象として、核沸騰領域から膜沸騰領域へと遷移する過程における「液滴下部の波動現象こそが臨界熱流束メカニズムの鍵を握る」という新しい仮説を検証することである。 今年度は、液滴下部の沸騰現象を詳細に観察し定量的に評価するために、プリズム上面での全反射を利用した高速度FTIRイメージングを実現するための実験環境を構築した。 まずは、常温における液滴衝突現象を効率良く計測するための実験系を構築した。この常温衝突実験において、液滴の最大広がり径から液滴粘度を求めることが可能であることを、研究代表者らは明らかにし、学会発表および学術論文発表するとともに、特許出願を行なった。次に、熱伝導率の高いサファイア製プリズムを用いたFTIRイメージング装置を製作した。ヒーター、熱電対、温度調節器を取り付けたアルミブロックで、同プリズムを固定・加熱した。この可視化法と、新規導入した高速度カメラによる顕微鏡拡大高速度イメージングと組み合わせることで、加熱固体へ衝突する際の液滴下部の沸騰現象を可視化・定量評価可能とした。 実験ではまず、形状が既知である凸レンズを使用した検証を行い、FTIR法ではプリズム表面から約100 nmの範囲のみの気体(蒸気)膜厚を定量的に計測可能であることを実験的に示した。次に加熱平板およびプリズムへの液滴衝突実験により、核沸騰領域、繊維沸騰領域、ライデンフロスト領域における、蒸気泡やパッチの生成・成長と、それらの離脱・収縮過程を詳細に計測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画していた項目は以下の通りである。まず、実験装置の組み立てに関しては(1)サファイア製プリズムを加熱するための治具作製及びヒーター制御装置の取り付け 、(2)レーザーエキスパンダ、ポラライザの組み付け 、(3)入射角制御ならびに反射光計測を容易に行うためのミラー角度調整用ステージの導入 、(4)液滴落下位置(衝突速度)を容易に調節可能とする垂直レールの取り付け 、(5)液滴衝突検出用レーザーセンサの取り付け 、(6)凸レンズを使用したFTIR法のキャリブレーションである。これら実験装置の構築に関する項目は全て完了した。 次に、衝突液滴を用いた実験に関しては(1)高速度FTIRイメージングによる液滴底部波動現象の観察 、(2)画像解析による波動現象の定量評価を計画していた。これらについては、(1)のみ完了している。 また、当初計画に含まれていなかった成果として、常温固体へ衝突する液滴の最大広がり径から、液体物性である粘度を不確かさ10%程度で計測できることを明らかにした。 以上のことから、本研究課題の現在までの進捗状況はやや遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、平成29年度研究計画において実施できなかった項目である「画像解析による波動現象の定量評価」に早急に着手し遅れを挽回する。続いて、当初計画案通りに自由界面流れを得意とする非圧縮性流体ソルバであるGerrisによる数値シミュレーション研究を以下の手順に従って進める。(1)ワークステーションとGerris のセットアップ、(2)常温固体への液滴衝突シミュレーション、(3)加熱固体への液滴衝突シミュレーション(フーリエの法則に基づいて蒸気発生量を与える) 、(4)液滴底部の波動現象物理の理解。 今年度は、研究代表者の前任地であるオランダ Univesrisy of Twente, Physics of Fluidsグループを10月に訪問する。その際に、これまでの研究結果について成果を発表し、当グループメンバーと討議することによって、現象の理解をさらに深める。さらに、Gerrisシミュレーションに関して問題が生じた場合には、経験豊富である当グループの知見を求めることとする。
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