液滴が加熱面へ衝突すると,液滴と加熱面との界面において激しい沸騰現象が見られる。一般的なプール沸騰よりも加熱面上に形成される気泡運動が激しい理由は,衝突液滴底部では下部から加熱される一方で,上部からは液滴衝突により冷却液が供給されるためである。このように,非常に高いサブクール度を持つ衝突液滴内特有の沸騰現象を,私たちは衝突液滴沸騰と名付けた。 本年度は,衝突液滴沸騰に見られる気泡の膨張収縮運動を表す数理モデルを構築し,実験結果との比較によって,その妥当性を検証した。 軸対称の半球気泡の体積変動を表すRayleigh-Plesset方程式に,以下の現象を取り入れることでモデル化を行った。膨張する気泡底部にはマイクロレイヤーが形成され,マイクロレイヤーの蒸発により気泡は成長を続ける。他方,成長した気泡上部は過冷却液層へ貫入するため凝縮する。マイクロレイヤーが枯渇すると,このバランスが崩れ,気泡は圧壊する。 ところで圧壊時には,気泡中央部に壁面方向の液ジェットが形成され,気泡はリング状になる。このリングの内側は,液が攪拌されるため,比較的気泡運動は緩やかになるが,リング外側には依然過熱液層が残されているため,先の圧壊時に形成された気泡の破片が核となり,次の膨張(蒸発)・収縮(凝縮)運動が引き起こされる。このようにして,リング状の気泡が半径方向外側へと広がっていく。 上述の仮定のもと,気泡半径方向運動に関して構築したモデルと実験結果とを比較した。その結果,マイクロレイヤーの蒸発を考慮しかつ衝突液滴内部に形成される温度境界層を取り入れたモデル解析結果が,実験結果と良い一致を示した。以上のことから,衝突液滴沸騰では,マイクロレイヤーと液滴内部の温度分布が支配要因となっていることを明らかにした。
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