2021年度は、アスペクト比が十分小さいとは見なせない流路における潤滑現象に対して構築された拡張潤滑モデルを、接近する粒子間の流れに関する数値解析に適用した。用いた潤滑モデルは先年度と同様に壁垂直方向の圧力変化も考慮に入れたものであるが、新たに潤滑解析に適した座標系を仮定して導出し直したものであり、得られた粒子間の数値解は妥当な流れ場であることを確認した。 同モデルを潤滑が支配的な条件下における溶媒の膜透過流れに適用して膜透過流束を見積もったところ、透過係数(膜抵抗の逆数)が非常に大きい際には、潤滑モデルの2つの項のうちクエット速度成分に由来する項が発散する傾向を示すことがわかった。それを修正する潤滑モデルを再構成し、高解像度数値解析解との誤差を広い透過係数の範囲において調べた結果、妥当な膜透過流束の式を得ることができ、修正潤滑モデルの妥当性を確認できた。 上述の数値シミュレーションで用いた離散化は前年度に提案した整合性を保証する直接離散化形式であり、上の結果は、流体の速度場と圧力場の(離散的な意味での)整合性と直接離散化の考えが、複雑な形状の場合(例:二つの球形で挟まれた領域)や二成分系の膜透過流束にも適用できる場合があることを示したものである。さらに、半透膜の透過流束を扱う数値シミュレーションへ適用した例では、溶質の polarization を考慮した流量と膜透過係数の間に成立する新たな関係式が存在することを示した。 上記の拡張潤滑モデルの考え方は、粗さがある壁面に囲まれた流れ場にも発展できる可能性が明らかになった。流れ関数を用いた定式化であるため、現在のところ二次元空間に設定された流路に限定されたモデルであるが、複雑な形状の粒子群の相互作用問題を含め、将来の一般化が視野に入ってきたと言える。
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