研究課題/領域番号 |
17H03176
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
関 眞佐子 関西大学, システム理工学部, 教授 (80150225)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 流体 / 粒子 / 慣性 / Segre-Silberberg効果 / 平衡位置 |
研究実績の概要 |
本研究は,流路内層流に浮遊する粒子が,慣性に起因する揚力を受けて流路下流の断面内で特定の位置に集中する現象であるSegre-Silberberg効果について,様々な条件下での粒子集中位置の探索とその決定因子の特定を目指している.本年度は,Segre-Silberberg効果の主要因子として,流路断面形状(矩形管流路に対し,断面のアスペクト比)とサイズ比(粒子径と流路幅の比)を考え,この2つの因子の粒子分布への影響について実験及び数値シミュレーションの両面から流体力学的解析を行った. (1) 実験:様々なアスペクト比の矩形断面をもつ流路内に球形粒子の希薄サスペンションを流して,流路下流における粒子分布を計測した.その結果,サイズ比が0.1程度の場合には,アスペクト比に関わらず,断面の長辺中央付近に粒子が集中する点が存在することが分かった.アスペクト比を増加させると,同じレイノルズ数に対し,粒子集中点は流路中央に近づく結果となった.一方,正方形断面の流路の場合にサイズ比を0.25程度まで増加させると,低レイノルズ数領域において辺中央付近の粒子集中点が消滅し,四隅付近に粒子集中点が現れることが分かった. (2) 数値解析:正方形流路を用いた実験に対応するパラメーターに対して,流路内に単一の球形粒子が存在する場合の粒子運動を,埋め込み境界法を用いた数値解析プログラムにより解析を行った.粒子に作用する揚力の計算を行い,揚力が0となる平衡位置を求めた.その結果,粒子平衡点は断面の辺中央付近と四隅付近に常に存在するが,その安定性がサイズ比とレイノルズ数によって変化することが示された.低レイノルズ数の場合に,サイズ比が0.1程度では辺中央付近の平衡点が安定となるのに対し,サイズ比が大きくなって0.25程度になると逆に四隅付近の平衡点が安定となることが示され,実験を説明する結果となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
流路断面のアスペクト比とサイズ比を変化させた場合の粒子集中位置について,おおむね順調に探索することができた.ただし,サイズ比の範囲を0.02~0.4とする計画であったが,サイズ比が0.07程度より小さい場合には粒子は断面内で分散しており,集中位置の特定が難しかった.その原因は,サイズの小ささに起因する観察の困難さに加え,粒子に作用する揚力が粒子サイズのべき乗に比例するため揚力が小さく,十分な粒子集中が起こらなかったためと推察される.現状よりも長い流路を用いることによって揚力が作用する距離を増やせば,小さな粒子の場合も粒子集中が観察できる可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
サイズ比の影響について引き続き研究を進めると共に,当初の予定通り,他の主要因子と考えられる浮遊粒子の変形性と媒質の粘弾性がSegre-Silberberg効果に与える影響について実験及び数値シミュレーションの両面から研究を行う.変形性の影響については,浮遊粒子として変形性の高い正常赤血球と,グルタルアルデヒドに浸漬することにより様々な程度に硬化させた赤血球および過酸化水素により軟化させた赤血球を用いて,流路断面における赤血球分布を計測し,その差異を調べる.各赤血球の膜弾性の計測を行い,物性値と流路内分布との関係を評価する.媒質の粘弾性の影響については,界面活性剤であるCTAC(Cetyltrimethylammonium Chloride)と対イオンとしてNaSal(サリチル酸ナトリウム)の水溶液を用いる.まずCTAC水溶液の粘度計測を行うと共に,流路内に流して速度分布を計測する.続いて,粒子を浮遊させたCTAC水溶液を管内に流し,粒子分布の計測を行う.実験に対応するパラメーターに対して数値シミュレーションを行う.まず,赤血球の微小管内流れを解析し,最終的な赤血球の平衡位置とレイノルズ数との関係を求める.次に,媒質がCTAC水溶液の場合の数値シミュレーションを行い,粒子周りの速度分布の可視化と粒子表面に作用する応力分布を求め,粒子分布の変化を流れ場の構造と関係づけて検討する.
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