研究課題/領域番号 |
17H03181
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小宮 敦樹 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (60371142)
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研究分担者 |
岡島 淳之介 東北大学, 流体科学研究所, 助教 (70610161)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | タンパク質 / 物質拡散 / 結晶成長 / 位相シフト干渉計 / 機能性膜 |
研究実績の概要 |
本研究では,タンパク質やアミノ酸に代表される生体高分子の液相内移動現象を能動制御し,タンパク質高品位結晶化の実現を目指すことを目的としている.研究三年目は引き続きスマートメンブレンの諸条件を変えたタンパク質物質拡散実験を行い,併せて周囲飽和溶液の結晶成長時の濃度分布に温度分布を加えることで自然対流を抑制する手法について,数値シミュレーションによる検証を行った.また,実際に種結晶を製作し,周囲環境を制御した結晶成長実験の予備実験を開始した.拡散場の可視化実験に関しては,引き続き海外研究協力者と綿密な議論を行い,複数種のスマートメンブレンの提供を受けた.特に本年度は海外研究協力者を招聘し,これまでの実験データを総括しつつ,今後の実験パラメータについて詳細な議論を行った.その結果,スマートメンブレンの代表孔径はタンパク質の透過量を制御するだけでなく,物質流束の時間変化も制御することが可能であり,定常の物質流束となる第二種境界条件を実現できることを明らかにした. また,これらのスマートメンブレンの他に,代表孔径が10ミクロンオーダーの円筒状の通過孔を有するアイソポア膜を用いた実験を行った.これらの実験結果および昨年度のミリポアの実験結果と併せて比較することで,膜透過量の他に膜近傍の濃度分布についても評価した.これらの成果は国際会議で発表を行い,講演論文表彰を受けた. 温度場を考慮した結晶成長に関する数値シミュレーションについては,昨年度開発した温度場濃度場同時シミュレーションコードを用いて,種結晶周りの結晶成長を進行させつつ自然対流を抑制させることのできる温度境界条件の検討を行ってきた.数値計算は三次元で行い,最適条件の検討を進めた.また,得られた最適条件が次年度以降に計画している実験において,条件設定が可能であるかの検証も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究計画に対しておおむね計画通りに研究を進められたと判断することができる.研究三年目の本年度は目標として「結晶成長実験を実施し,周囲濃度環境と結晶品位の関係を明らかにする」を掲げ,サブテーマとして「周囲濃度場を制御しない条件での結晶成長実験実施」および「周囲濃度場制御条件での結晶成長実験実施」を掲げた.このうち,前者のサブテーマは実施済みであり,後者の周囲濃度場制御条件での実験実施に向けた準備を整えることができたと言える.周囲濃度場制御条件については,スマートメンブレンおよびアイソポア膜を介したタンパク質濃度場可視化実験により,濃度場の時空間制御が可能であることが確かめられたので,その情報を後者のサブテーマに反映させるのみである.全体的には80%の達成度であると判断できる. また,研究申請書には記載をしていないが,温度境界条件も限られた範囲内で設定することができ,この温度場が自然対流の発生を抑制することができることから,新たな実験パラメータとして組み込むこととした. 以上をまとめると,飽和溶液内の温度場を制御することを研究計画に加えたが,ほぼ申請書に記載の計画通りに進展していると言える.以上の理由により,本年度の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究の進展がおおむね順調であったことから,最終年度も研究計画は大きな変更をせず,研究計画書に沿って推進し研究を総括する. これまでと同様に海外研究協力者との連携のもと研究を進め,スマートメンブレン製作を行う研究協力者側と実験を行う研究代表者側での連携を密にし,研究を総括する.最終年度であるため,複数回の研究コミュニティ会議を開催する予定であったが,状況が難しいことから遠隔会議を利用して研究を進め,進展度合いの情報共有化を図る.次年度も主としてパラメトリックな実験を行うことから,大学院生の補助を受けて効率的な実験実施ができるよう注意を払う.研究成果がまとまりつつあることから,成果発信の準備も年度の早い段階で進めていくこととする.
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