癌等の疾患の早期発見や個別化医療の実現には,臨床検査で血液等の検体中の遺伝子情報の解読やバイオマーカーであるタンパク質(酵素)の活性の定量測定が不可欠である.しかしながら,これらの生体分子は,体外に摘出すると極めて速やかに劣化が進む上に,凍結保存では劣化の抑制が不完全で手間もかかることから,臨床検査の医療現場では臨床検体の「質」の維持が重大な問題となっている.本研究では,臨床検体中に存在する生体分子の活性を維持した常温乾燥保存の保存機序を明らかにし,保存プロセスの設計の指針を確立することを目的としている.最終年度では,血漿中のバイオマーカーで,環境変化に脆弱なLDH(乳酸脱水素酵素)をベンチマーク分子とし,超薄膜化による真空常温乾燥保存を行い,以下の成果が得られた. 1)保護物質として,LDHにε-PLL,トレハロース,硼砂等を加えた試料を常温真空乾燥した直後のLDH活性を測定して,乾燥後の含水率と活性の関係を明らかにした. 2)LDHに種々の質量比を有するε-PLL+トレハロースを保護物質として添加し,常温真空乾燥させた試料のLDH活性の時間変化を,加速実験により約2カ月にわたり測定して,劣化反応速度定数を算出した. 3)LDHに対する保護物質(ε-PLL+トレハロース)の質量比を変えて,常温真空乾燥した試料のLDH活性を測定し,必要最小限の保護物質量を見出した. 4)上記の測定結果より,ε-PLLとトレハロース,さらにその混合物がLDH活性を保護する機序を説明するモデルを提案し,各保護物質やバイオマーカー分子に依存する特性値を測定することで,乾燥直後のLDH活性が添加総量と質量比より予測できることを示した. 5)LDHに保護物質(ε-PLL+トレハロース)を添加した液体状態の試料について,LDH活性の時間変化を約1カ月強測定し,液相状態(液性検体)の劣化反応速度定数を算出した.
|