研究課題/領域番号 |
17H03184
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
花村 克悟 東京工業大学, 工学院, 教授 (20172950)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ピラーアレイ構造放射体 / 波長選択近接場光輸送 / エネルギー変換 / ショットキーダイオード電池 |
研究実績の概要 |
本研究は、数百ナノスケールの真空隙間を隔て向かい合う赤外線放射面と光起電力半導体表面の双方にナノサイズの周期的柱状構造を付与し、その柱間溝を隔て向かい合う側面に生ずる表面プラズモン(これらは溝内の電場により互いに結合)を溝深さ(柱高さ)と干渉させることで発電に寄与する波長帯のみ選択的に輸送促進させ、熱から電気への高密度エネルギー変換を構築するものである。 平成29年度は、平滑面GaSbショットキーダイオード電池を用い、その表面に4つの石英ガラス製スペーサー(直径500ミクロン)をスパッタリングにて設置することで、放射体との隙間を特定できる実験装置を構築した。放射体には、ピラーアレイ構造による選択性を確かめるため、平滑面タングステン製放射体とその表面にピラーアレイ構造を施した放射体を用意した。電子線描画装置とエッチング装置の制約から、ピラーアレイのピッチは800nm、ピラー間の隙間は100nm、ピラー高さは120nmとした。スペーサーを介した熱伝導による電池の局所温度上昇を抑えるため放射体温度は500℃とした。その結果、隙間が400nm程度までは伝播光成分が支配的であり、隙間とGaSbの感度波長との干渉により、隙間が1000nmから狭くなるにつれて、出力が一旦増大し、その後800~500nmにわたり減少することが示された。さらに隙間を狭くすると近接場効果による急峻な出力の増大が得られた。ピラーアレイ構造放射体においては、そのような干渉は顕著ではなく、近接場光領域では平滑面放射体に比べて2倍程度発電密度が度増大した。ただし、この電池特性やスペーサー高さの不確定性など、確実に結論づけるには課題は少なくない。一方、ピラー表面電池に代えて、島状AuアレイとGaSb薄膜そして裏面Auの多層構造においても選択波長の効果があることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、GaSb半導体のp層にピラーアレイ構造を、塩素系ガスを利用した反応性イオンエッチングにて製作する計画であったが、予定したほどキャリア濃度が高くならず、製作できるキャリア濃度の半導体では、ピラー構造を付与しても、金属製ピラーアレイ構造放射体の近接場共鳴周波数とのチューニングが困難であることが数値計算より明らかとなった。そこで、発想を変え、Au(島状)/GaSb/裏面電極Auの多層構造とすることで波長選択発電デバイスが製作できることを見出した。数値計算により、GaSb半導体上部の島状Au間から入射したふく射はAuに挟まれた100~300nmの薄膜GaSb層内部で多重反射を繰り返すことにより、薄膜にも関わらず、発電に必要な感度波長において吸収率が1に極めて近くなることを示すことができた。予定を変更したが、発電システムへ向けての進捗はおおむね順調であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Au(島状)/GaSb/Au多層構造発電デバイスの製作に注力し、まずは遠方場の入射ふく射を使って、波長選択発電デバイスの発電特性を明らかにする。次に、GaSbの光学特性は、発電していないときの特性であり、発電している場合においては、電子やホールにより、その光学特性が変化することが予想される。こうした光学特性は一般的には測定されておらず、非発電時の光学特性に基づいて議論されている。これでは十分な発電性能の予測ができない可能性があることから、発電時におけるGaSbの光学特性を測定することに挑戦する。そして、この多層構造電池と、タングステン製ピラーアレイ構造放射体およびアルミドープ酸化亜鉛製ピラーアレイ構造放射体を近接場効果領域まで近づけた発電システムの構築を進めることとする。
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