本研究は、数百ナノスケールの真空隙間を隔て向かい合う赤外線放射面と光起電力半導体表面の双方にナノサイズの周期的柱状構造を付与し、その柱間溝を隔て向かい合う側面に生ずる表面プラズモン(これらは溝内の電場により互いに結合)を溝深さ(柱高さ)と干渉させることで発電に寄与する波長帯のみ選択的に輸送促進させ、熱から電気への高密度エネルギー変換を構築するものである。令和元年度は、フィッシュネット状電極/薄膜GaSb半導体/平滑基板電極といった構造による、GaSb半導体のバンドギャップ(波長1.8ミクロン)近傍に吸収率100%、その他の波長域では数%といった理想的な電池構造が可能であることを実験的に明らかにすることに注力した。これは遠方場成分に対応する電池であるが、近接場光においても波長制御発電が可能となることが期待される。数値計算によれば、上下の電極により挟まれるGaSb半導体の厚みは100nm程度ある。これを実現するため、まずInAs基板(500ミクロン厚)を用意し、その表面にGaSbをエピタキシャル成長させる。その後InAsを塩酸にて完全に取り除いたのち、このGaSb薄膜をSi基板(500ミクロン厚)にスパッターされた平滑Au電極表面にファンデルワールス接合により貼り付ける。最後に、レジスト塗布と電子線描画さらにAuスパッターとリフトオフを経て、開口サイズ300nm×300nm、幅100nmのフィッシュネット電極をGaSb表面に製作した。この構造の吸収率は、数値計算結果とほぼ同様に、波長1.8ミクロン近傍において95%、それ以外は10%以下となることが明らかとなった。したがって、本研究期間において、ピラーアレイ構造放射体とMetal/Semiconductor/Metal電池が用意でき、波長選択近接場光発電システムの構築に大きく前進することができたと考えられる。
|