臭化リチウム(LiBr)水溶液を吸収液とした吸収冷凍機は、未利用排熱の有効利用が可能な機器として期待されている。しかし現状では、LiBr水溶液中に析出するLiBr水和物結晶により運転条件が制限されるため、十分な性能を発揮できていない。本研究では、LiBr水和物の結晶面に選択的に吸着して、非平衡状態のまま水溶液中で結晶の粗大化や成長を抑制する結晶化抑制分子の効果を実験的に評価することを目的としている。今年度は、前年度に引き続いて、LiBr水和物結晶の成長抑制を評価するための測定手法を検討し、昨年度に絞り込んだ結晶成長抑制物質を用いて結晶成長抑制効果を評価し、測定結果に基づいて成長抑制の機序について考察した。 測定では、62.8wt%に調整した数マイクロLのLiBr水溶液を精密に温度制御し、0.1mm以下の大きさのLiBr水和物単結晶を含んだ状態で光学顕微鏡観察を行い、結晶の成長速度を求めて結晶化抑制物質の効果を評価した。この条件で安定な水和物はLiBr二水和物であり、成長時には複数種のファセット(分子的に平坦な結晶面)の出現が確認された。結晶成長抑制物質としては、ポリビニルアルコール(PVA)を1mg/mLの濃度で用いた。PVAを添加しないときには、最初にLiBr水和物単結晶の特定のファセットが成長開始する過冷度は0.8Kであったのに対して、PVAを添加したときには1.4Kとなり、顕著な差異を確認することができた。この結果から、PVAが特定のLiBr二水和物結晶面に対して結晶成長抑制効果を有することは明らかである。PVAを添加しないときに過冷度0.8Kまで成長が開始しないのは、ファセットの成長機構が二次元核生成成長に依存していることを示している。すなわち、PVAの結晶成長抑制効果は、二次元核生成を抑制しているためだと考えられる。
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