研究課題/領域番号 |
17H03192
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石川 諭 九州大学, 工学研究院, 准教授 (60612124)
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研究分担者 |
木庭 洋介 九州大学, 工学研究院, 技術専門職員 (20380602)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 診断 / 発声障害 / 喉頭がん / 集中系モデル / 音声生成 |
研究実績の概要 |
喉頭がんなどの発声障害の診断時に行われる音声検査(GRBAS尺度)は客観性に乏しい問題があるが,声帯付近の病変が直接的に影響する声帯部の流速変動波形(声帯音源波)を推定できれば,病変を客観的に捉えることができる.そこで,本研究では,マイクで測定した音声データから声帯音源波を逆解析する発声障害診断技術を開発する.本手法では,声道(口と喉の空間)内の空気をばね-質点で構成される集中系でモデル化し,声道部分の音響解析モデルを作成する.そして,音声データから声道部分の形状を同定し,解析モデルに反映させる.さらに,解析モデルを用いて音声データから声帯音源波を逆解析する. 29年度は,ピストンを用いて簡易的な音声発声模型を製作し,声帯音源波逆解析手法の妥当性を確認したが,30年度はシリコンゴムで声帯部を作成し,声帯部が自励振動する,より人の発声器官に近い音声発声模型を製作した.そして,発声模型を用いて発声させ,声帯部の流速と唇部の音声を測定し,音声から声帯部の流速波形を逆解析する手法の妥当性を検証した.流速はレーザードップラー流速計を用いて計測し,唇部の音声を逆解析した結果,計測した流速波形と逆解析した流速波形がよく一致し,本研究で提案した逆解析手法が妥当であることを確認した. また,DVD「動画で見る音声障害」に収録されている発声障害患者の音声データから声帯音源波を逆解析し,疾患ごとの音源波形を大まかに分類でき,疾患特定の診断に利用できる可能性があることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
30年度はシリコンゴム製の声帯部を有する人の発声器官に近い音声発声模型を製作し,声帯部の自励振動による発声を可能にした.そして,精密模型を用いて発声させ,声帯部の流速と唇部の音声を測定し,音声から声帯部の流速波形を逆解析する手法の妥当性を検証した.流速はレーザードップラー流速計を用いて計測し,唇部の音声を逆解析した結果,計測した流速波形と逆解析した流速波形がよく一致し,本研究で提案した逆解析手法が妥当であることを確認した. また,発声障害患者の音声データから声帯音源波を逆解析し,疾患ごとの音源波形を大まかに分類でき,疾患特定の診断に利用できる可能性があることを確認した. これにより,本手法による発声障害診断の見通しが立った.以上より,本研究課題はほぼ計画通りにすすんでいる.
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今後の研究の推進方策 |
31年度は病変による声帯音源波形変化の特性およびメカニズムの把握を行う. 声帯ポリープ,声帯結節,喉頭がんなどが発症すると,声帯の一部の剛性が増減,あるいは一部の質量が増加するため,声帯の対称性,均質性がくずれてしまい,発声に支障をきたす.これらの変化が声帯音源波形に与える影響を確認するため,発声模型の声帯の一部の剛性・質量を変化させ,声帯音源波形を測定する.そして,発声障害患者の音声データから分類した患者の声帯音源波形と比較し,発声模型を改良しながら各病変による声帯音源波形を発声模型で再現する. 各病変による声帯音源波形変化の特性,変化の物理的メカニズムを把握するため,声帯部の自励振動を含めた気道から声道までの音声生成モデルを作成する.本研究では気道・声道部の音響現象をばね-質点系でモデル化し,その解析による音圧と声帯振動が連成する解析モデルを作成する.さらに,固有値解析やシューティング法を用いた非線形定常周期解の求解を行い,病変による自励振動の変化のメカニズムを解明する.発声模型の音声測定結果と音声生成モデルの解析結果を比較することにより,モデルの妥当性を確認する.
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