研究課題/領域番号 |
17H03221
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
西尾 圭史 東京理科大学, 基礎工学部材料工学科, 教授 (90307710)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 熱電変換 / マグネシウムシリサイド / マンガンシリサイド / n型半導体 / p型半導体 / p-nモジュール / ニッケルシリサイド |
研究実績の概要 |
本年度は以下の三点について研究開発を進めた。 第一にMg2SiおよびMnSi1.73の放電プラズマ焼結法による簡易合成プロセスの構築およびドーピングによる熱電変換性能向上である。Mg2SiおよびMnSi1.73の合成は原料金属粉末を混合し、放電プラズマ焼結装置を用いることで実施したところ、MgOなどの熱電変換性能の低下を引き起こす不純物の生成は確認されず、良質なシリサイド化合物を得ることが容易に行える結果を得た。また、アーク溶解法により合成した不純物ドープ原料合金を用いることで不純物ドープMg2SiおよびMnSi1.73の合成も可能とした。Mg2Siへはアンチモン、ビスマスまたはアルミニウムドープを行うことでキャリア生成を検討した。 第二に、Mg2Siのp型半導体化を行った。Mg2SiのMgサイトへLiを導入することでp型化に成功したが、低濃度ドープ試料においては高温域においてp-n反転が生じ、n型半導体となることが確認された。Liを高濃度ドープすることでp-n反転を抑制することが可能となり、p型Mg2Siを得ることは可能となった。 第三に、電極材料の開発および形成技術開発 熱電素子から効率よく電力を取り出すための新しい電極材料としてニッケルシリサイドの合成と応用について検討した。電極材料の候補となるNi2Si粉末とMg2Si粉末を混合し、放電プラズマ焼結装置内で熱処理を行ったところ、粒子界面において僅かな反応相の形成が生じることで接合強度が増加した。反応相は大気中における後熱処理で増大することは無く、放電プラズマ焼結装置を用いた接合方法が原因であると考えられるが、この反応相の電気伝導度は非常に高く、熱電素子と電極界面において抵抗成分とならないことからMgO生成を抑制した良好な接触界面を形成する要因であると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Mg2Siの合成プロセスとして、放電プラズマ焼結装置を用いることで熱電性能を低下させるMgOの生成を抑制することに成功し、またアンチモン、ビスマスまたはアルミニウムドープを行うことで熱電性能向上に成功している。一方、MnSi1.73の高性能化においてはクロムドープにより電気伝導度の向上が可能となったが、電気伝導度が向上した事によるゼーベック係数の大幅な減少が生じたために熱電変換性能はノンドープ試料が最も高い性能を示す結果となった。このため、熱電性能を向上させるための最適ドープ量の検討を進め、電気伝導度を向上させつつもゼーベック係数の大幅な低下を抑制させることの検討が必要となっている。 Mg2Siのp型半導体化においてはLiドープによりp型化には成功したが、低濃度ドープでは高温域において真性半導体キャリア生成によりp-n反転が生じる。高濃度ドープによりp型を維持することは可能であったが、高温域においてはn型キャリアの影響により大幅な性能低下が生じ、現段階では熱電変換性能としては実用化にはほど遠い結果であるため、他のアルカリ金属ドープなど高性能化に向けて更なる検討が必要となった。 MnSi1.73へニッケルシリサイド電極接合を検討したところ、界面では定比組成の複数の化合物形成が確認された。これらの反応相物質の熱膨張係数はMnSi1.73の熱膨張係数と大きな差を持つことから電極接合界面付近での破壊を誘発する原因となることが明らかとなった。このため、ニッケルシリサイド電極材料とマンガンシリサイド界面にMnSiをバッファ層として導入したところ、電極-素子界面での破壊が抑制され、良好な電極―素子接合を可能とすることが期待できる結果を得た。しかし、破壊抑制のメカニズムについては不明な点が多く、更なる検討が必要となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の三点について検討を行う。 第一に、前年度に明らかとしたNi系電極とMg2SiおよびMnSi1.75との界面における反応相の形成とこれに伴う界面応力の発生によるクラック生成および電極剥離を抑止するためのバッファ層の導入の効果を検証し、反応相生成に伴う熱応力を原因とした破壊を生じない電極付き素子の製造法を確立する。 第二に、アルカリ金属ドープによるMg2Siのp型半導体化を進めると共に、アルカリ金属ドープによるn型半導体化も検討する。アルカリ金属はその イオン半径によりMgサイトと4bサイトと呼ばれる格子間隙に固溶することが考えられ、その実験データを蓄積し、解析を進めている。アルカ リ金属種を変えることのみでMg2Siのp型およびn型半導体化が容易となることで熱膨張係数の等しい素子により構築されるp-n接合モジュールが得られる可能性がある。 第三に、前項の研究による成果が得られた後、n型半導体としてMg2Si、p型半導体としてMnSi1.75またはMg2Siを用い、電極にはNi-Si、バッファ層 としてMnSiを導入した素子を用い、最終形態であるモジュール構造を確立し、高出力発電熱電モジュールの実現を目指す。
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