研究課題/領域番号 |
17H03230
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田口 大 東京工業大学, 工学院, 助教 (00531873)
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研究分担者 |
間中 孝彰 東京工業大学, 工学院, 教授 (20323800)
岩本 光正 東京工業大学, 教育・国際連携本部, 特任教授 (40143664)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電子・電気材料 / 誘電体物性 / 可視化 / マイクロ・ナノデバイス / 低消費電力・高エネルギー密度 |
研究実績の概要 |
摩擦電気の発生は、冬にセーターを脱ぐときにパチパチと音をたてたり、衣服がまとわりつくことでそれと知られます。しかし、電気そのものが目に見えるわけではありません。私たちは、電気そのものが見える新しい顕微鏡を工夫しました。光第2次高調波発生(SHG)法という、特別なレーザーを照射して撮影する方法です。摩擦電気のする仕事は、電池に比べて小さいですが、ナノレベルでは同じ仕事をする力があると考えています。現在は小さな電気を効率よく使う電気回路を作ることができますので、様々な働きができることが、既に世界中で報告されています。つまり、発電源としての摩擦電気の研究が重要になっています。私たちのSHG顕微鏡を使えば、発電の源となる「電荷」と「双極子」を別々の色で可視化することができますので、これを学問的に追及する強力な手立てになります。本年度は、次のような成果を得ました。 (1)電気の源の「電荷」と「双極子」を分けて可視化することは既に実現していましたが、「電荷」の2つの種類、プラスとマイナスを見分けることはできませんでした。見分けられることを実験で示すことができました。 (2)「双極子」に着目した摩擦発電は、実はあまり従来の研究例がありません。ポリイミドと強誘電ポリマーの発電を調べ、永久双極子による発電特性の変化を測定しました。永久双極子が大きいと発電密度が大きいことと、永久双極子の向きにより発電密度が変わることをI-V測定から確定しました。 (3)永久双極子をもつポリイミド(PMDA-ODA)と、永久双極子をもたないポリイミド(PMDA-MDA)を研究グループ内で合成できるようにしました。半経験量子軌道計算と有限要素法による電界計算で「電荷」の変位と「双極子」の回転による発電を分子レベルでシミュレーションしました。 以上の結果をまとめ、論文誌及び学会発表を通じて成果を公表しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、電界誘起光第2次高調波発生の光学手法としての特徴を活かして、摩擦電気の分子的起源(「電荷」と「双極子」)を特定する、静電気分子エレクトロニクスのための新しい材料評価基盤を実現する。前年度までに、研究計画の通り摩擦電気を可視化するEFISHG評価システムの拡張と摩擦電気の「電荷」と「双極子」を選択的に測定できた。さらに当初の計画を越えて、正負電荷を見分ける実験手法も確立できた。研究グループ内で前駆体ポリアミドを合成する状況を整え、現在は永久双極子(m)の異なる分子、PMDA―ODA(m=3.2D)及びPMDA-MDA(m=0.1D)を合成し、測定に供している。進捗は次の通りである。 (A)摩擦電気の起源の峻別:カメラを用いた摩擦発電の「電荷」の動画撮影は既に実現した。更に「双極子」の動画撮影できるシステムを構築した。 (B)摩擦電気発生ダイナミクスの解明(時間発展):電荷の誘電緩和時間及び双極子の緩和時間と、摩擦発電との関係を理論的に整理した。電気回路として発電源を表し、誘電現象の観点で体系化した。 (C)摩擦発電中の分子エネルギー状態の評価(エネルギー空間):負荷(1GΩ~1TΩ)を接続して熱刺激電流測定を行い、発電の有無による電流波形の違いを実験から検討した。 以上の成果を次の通り統括した。摩擦発電を誘電分極現象ととらえると、その起源は「電荷」及び「双極子」である。これを電気回路理論によりモデル化すれば、材料物性とエレクトロニクスの橋渡しする等価回路が得られる。一方で誘電分極によるモデルは、摩擦発電にとどまらず、光刺激、熱刺激、生命エネルギー等、普く分極形成・脱分極をともなう外部刺激を発電源として扱うことができる。本研究を基礎として、一般的に外部刺激を誘電分極現象を通して電気エネルギーに変換して利用する、新しいデザインのエレクトロニクス分野の開拓が可能である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、電界誘起光第2次高調波発生(EFISHG)の光学手法としての特徴を活かして、摩擦発電の分子的起源(「電荷」と「双極子」)を特定する、摩擦発電現象を評価するための新しい学術的基盤を実現する。前年度までに、研究計画の通りポリイミドの摩擦電気を可視化するEFISHG評価システムの拡張と摩擦電気の「電荷」と「双極子」を選択的に測定できた。また各種ポリイミドを合成して摩擦発電特性を比較することで、「双極子の有無」による摩擦発電特性の違いを、強誘電体高分子P(VDF-TrFE)の分極反転を利用して、「双極子の向き」による摩擦発電の違いを実験で明確化した。本年度は、EFISHG評価システムを拡張して環境チャンバを導入する。これにより、実験面で摩擦発電を湿度・ガス雰囲気を制御した上で評価可能ととする。そして、次のテーマについて研究を進める。 (A)摩擦電気の起源の峻別:カメラを用いた摩擦発電の「電荷」の動画撮影は既に実現した。「双極子」の動画撮影できるシステムを追加で構築した。本システムにより、「双極子」の動画撮影を行う。 (B)「四重極子」による摩擦発電:「電荷」及び「双極子」による摩擦発電について、これまで計画に従い研究を進める中で、さらに先へ進む計画とし、「四重極」による摩擦発電に展開する。 (C)摩擦発電中の分子エネルギー状態の評価(エネルギー空間):「電荷」と「双極子」による発電源が、実際に電源として負荷に接続したときに新たに生じる現象を理論化する。これにより摩擦発電を含めて誘電分極現象の立場からの発電現象として体系化する。 以上の研究計画を実施し、誘電物性の観点から摩擦発電の新しい学術分野としての位置づけを総括する。
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