研究課題/領域番号 |
17H03233
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
垣尾 省司 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (70242617)
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研究分担者 |
水野 潤 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, 上級研究員(研究院教授) (60386737)
鈴木 雅視 山梨大学, 大学院総合研究部, 特任助教 (60763852)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | SAWフィルタ / 縦型リーキー弾性表面波 / 異種材料接合 / 高性能化 |
研究実績の概要 |
移動通信システムの発展に伴って,LiNbO3(LN)やLiTaO3(LT)などの圧電結晶を用いた弾性表面波(SAW)フィルタの高周波化・広帯域化が強く要請されている.縦型リーキーSAW(LLSAW)は,通常のSAWと比べて1.5~2倍の位相速度を持つため高周波化に有利であるが,非常に大きな伝搬損失を有する.本研究では,異種材料接合技術を用いてLLSAWの高結合化を図り,次世代移動通信システム端末に適用可能な高周波フィルタを実現させることを目的としている.本年度の主な研究成果を以下に示す. 1.昨年度に小さい伝搬減衰が得られることを理論的に明らかにした,XカットLT薄板とXカット水晶支持基板の接合構造を準備,波長32μmの共振子Al電極を作製し,LLSAWの共振特性を評価した(規格化板厚0.094).LT 単体の特性と比較すると,アドミタンス比が9.4 dB から45 dB に,共振Q が32から282にそれぞれ増加した.その共振周波数の温度に対する周波数変化率は-26.2 ppm/℃であり,その絶対値はLT単体よりも小さいが,接合構造の理論値より大きい.この相違は接合強度の不均一性や残留応力に起因すると考えられる. 2.薄板と水晶の境界にアモルファス層を設けて残留応力を抑制する構造を提案し,LLSAWの共振特性を有限要素解析により理論的に検討した.XカットLN薄板とXカット水晶の境界に,規格化膜厚0.01のAl2O3中間層を設けると,無限周期構造の共振子における共振Q が15,000から82,000に増加することを明らかにした. 3.原子層堆積法(ALD:Atomic layer deposition)を用いてAl2O3薄膜を中間層として成膜すると,ECRやイオンビームスパッタリングによる成膜と比較して,残留応力が格段に低減し,LN薄板と水晶間の接合強度が増大することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度に計画していた,LLSAWに対する数値目標(6,000m/s以上の位相速度,5%以上の結合係数,-30 ppm/℃よりも良好な周波数温度係数,0.03dB/波長以下の伝搬損失)を得るための接合基板構造の最適パラメータをほぼ確立したため,おおむね順調に進展していると判定される.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に見出した,高い接合強度と高Qの共振特性が同時に得られるAl2O3アモルファス薄膜を接合層とする構造を用いて,高速・高結合・高安定・低損失なLLSAW基板構造を確立させ,次世代移動通信端末用高周波フィルタとしての有効性を実証する.具体的な実施方法は以下の通りである. 1.異種材料接合基板構造の設計・作製・評価: ALDにより,Al2O3アモルファス薄膜を水晶基板とLN,またはLT圧電薄板の接合面に成膜後,両基板を接合した試料を作製する.LN,LT側を設計した最適厚みに薄板化,表面を鏡面研磨し,接合強度と残留応力の接合条件依存性を評価する.さらに,研磨側表面に波長5~10μm程度の電極指から成る共振子パターンを作製する.ネットワークアナライザを用いてLLSAWの共振特性,温度特性を評価し,Q値・周波数温度係数と接合強度・残留応力の相関を明らかにし,目標とする特性を得るため接合条件を確立させる. 2.高周波フィルタの設計・試作・評価: 確立した基板構造を用いて,共振,反共振周波数がわずかに異なる共振子を複数個配置したラダー型低損失フィルタを設計し,圧電薄板/Al2O3アモルファス接合層/水晶基板構造上にフィルタ電極パターンを作製、フィルタ特性と温度特性を評価する. これらの検討により,提案する異種材料接合基板構造の次世代移動通信端末用高周波フィルタとしての有効性を実証する.また,これらの得られた結果を取りまとめ,論文投稿や成果発表を行う.
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