研究課題/領域番号 |
17H03236
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
酒井 朗 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20314031)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | メモリスタ / シナプス / 酸化物結晶 / 酸素空孔 / 薄膜 / レーザー蒸着 / 転位 / 透過電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
貼り合わせ原子接合法を用いて、接合界面における2次元らせん転位網を電気伝導層とするSrTiO3(001)双結晶基板を作製した。これより、集束イオンビーム加工を駆使して、1μmオーダーのキャパシタ型Fe/SrTiO3/Pt微細素子を形成した。同素子の電流電圧特性において逆8の字型電流電圧ヒステリシスループが観察され、さらに転位網を有しないSrTiO3(001)結晶基板の特性との比較から、素子の抵抗スイッチング現象には、酸素空孔のドリフトと転位網の存在が深く関連することが示唆された。また、転位網を有する素子の方が高抵抗状態と低抵抗状態の抵抗比が大きく、かつヒステリシスの繰り返し耐性に優れることを確認した。 一方、昨年度に立ち上げた酸化物結晶ホモ・ヘテロエピタキシャル成長のためのレーザー蒸着装置を活用し、成長雰囲気、入射フラックス等の制御に基づき、TiO2単結晶基板上にTiO2-xエピタキシャル薄膜を作製した。これらの薄膜に対して4端子平面型メモリスタ素子を作製し、薄膜の電気伝導率が成長条件に依存することを確認した。また、正方配置された4端子電極の内、1つの対向端子電極対への電圧印加によって、もう1つの対向端子電極対間の電気伝導率が変化し、それが電圧印加による酸素空孔分布形態の遷移によることが明らかになった。従来の熱還元処理TiO2-x単結晶基板上に同構造を持つ素子(バルク型)と比較した結果、バルク型の抵抗比が2~3倍であるのに対し、薄膜型では最大20倍にまで増加させることができた。レーザー蒸着によるメモリスタ材料の成膜においては、材料系を現在の単結晶遷移金属系のみならず、アモルファス典型元素系酸化物(GaOx)にも拡張し、キャパシタ型素子の電気特性評価から、メモリスタとして機能するGaOx膜の適切な成膜条件の指針を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標である高配向転位網のメモリスタ機能は、接合界面にらせん転位網を有するSrTiO3(001)双結晶基板を微細に素子加工することで実証された。観測された抵抗スイッチング現象は、結晶中の転位網が酸素空孔と相互作用することの証左である。また、前年度に立ち上げたレーザー蒸着装置をフル活用することで、TiO2系材料のホモエピタキシャル成長技術がほぼ確立された。これによって、膜厚100 nm以下の電気的活性層を有する4端子平面型メモリスタ素子の開発へと研究を新たに展開し、従来までに得られなかった、薄膜ならではの優れた特性を獲得することができた。本研究においては、安定的特性を有するメモリスタ素子のプラットフォームを実現することを主たる目標の一つとして掲げており、これらの成果は、目標達成への確実な前進といえる。特に、後者の薄膜型4端子平面型メモリスタは、研究計画段階では予期しなかった興味深い一面も有しており、最終年度に繋げるうえで重要な内容を含んでいる。以上より、本年度は、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
レーザー蒸着装置をフルに稼働し、引き続き、薄膜型4端子メモリスタ素子を開発していく。格子欠陥である転位と酸素空孔を制御するうえで、単結晶材料では結晶中の転位配向の制御が肝要であることが、本年度までで明らかになった。一方、完全アモルファス構造のメモリスタ薄膜については、更なる改良の余地を残している。アモルファス構造中には部分的に多結晶パーティクルを含んでいる部分もあり、それが抵抗比を下げる要因とも考えられる。完全アモルファス化に向けた実験条件をさらに詰めて、メモリスタ機能を高度化し、シナプティックプラットフォーム構築のうえでの多様性を図る。 また、本研究では、TEMおよびSTEMを用いた、薄膜構造、格子欠陥構造・形態、酸素空孔の分布状態、膜組成等の観察を通して、それらとメモリスタ特性の相関を見出すことも課題である。前年度に立ち上げたTEMによるその場観察技術を今後さらにブラッシュアップしていくうえで、薄膜型素子を基にそれをTEMサンプルへ応用することが有効であると考えている。それによって、メモリスタ素子における抵抗スイッチング過程のオペランド評価を実現し、格子欠陥起因の抵抗スイッチング発現機構の本質を明らかにしていく。
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