研究課題/領域番号 |
17H03238
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
永瀬 隆 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00399536)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機トランジスタ / 有機メモリ / 可溶性有機半導体 / 溶液プロセス / フローティングゲート / トップゲート構造 |
研究実績の概要 |
フレキシブルデバイスの実現において、溶液プロセスから作製が可能な有機電界効果トランジスタ(塗布型有機FET)の高性能化や高機能化が求められている。本研究では、多結晶有機半導体薄膜を有するトップゲート塗布型有機FETの更なる高性能化、それを用いた有機回路及び不揮発性メモリ、フォトトランジスタ等の有機積層型機能デバイスを開発することを目的として、研究を進めている。 平成29年度は、多結晶塗布型有機FETの更なる高性能化に対して、半導体層の塗布形成に用いる有機溶媒の種類、塗布速度等のプロセス条件の最適化を検討した。アルキルベンゾチエノベンゾチオフェン (BTBT) に塗布製膜に高沸点を有する非ハロゲン系有機溶媒を用いることで有機半導体の凝集が抑制され、高速塗布することで、ジオクチルBTBTを用いた塗布型有機FETで5 cm2/Vsを超える平均移動度が得られることが分かった。また、アルキル鎖長の長いジドデシルBTBTを混合溶媒を用いて製膜することで、多結晶性ドメインサイズが拡大され、簡易的なスピンコート製膜から10 cm2/Vsを超える高い最大移動度、閾値電圧シフト量0.5 V未満の高性能塗布型有機FETを作製できることを明らかにした。また、短チャネル有機FETの実効移動度の改善を図るため、塗布形成したMoO3の製膜条件を検討した結果、チャネル長5μmで1 cm2/Vsを超える移動度を達成できることが分かった。 トップゲート構造を有する有機FETメモリとして、可溶性有機半導体と高分子絶縁膜から成る電荷蓄積層の作製プロセス改良を進め、塗布型有機フローティングメモリで高い電荷保持特性を得られることを明らかにした。また、光照射下でのメモリ特性を調べた結果、有機半導体でのキャリア生成に由来した広いメモリウィンドウが得られ、多値記録メモリへの応用が可能であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究目標としていた多結晶塗布型有機FETの高移動度化に対して、特に混合溶媒を利用することで、当初の予想よりも高い移動度が得られ、また高い動作安定性を示すことを明らかにできた。短チャネル有機FETの実効移動度の改善については、接触抵抗の低減が大きな課題であったが、新たな電荷注入層を用いることで、従来よりも5分の1程度の低い接触抵抗を得ることができた。塗布型有機メモリの開発については、光照射下でのメモリを新たに調べた結果、書込特性を大きく改善でき、また有機フローティング構造に特有の特性を見出している。これらが異なる有機半導体層でも有効に活用できることも明らかにしている。次年度の有機FET回路の作製に向けて当初予定していた塗布型n型有機FETの開発についてはやや遅れているが、短チャネル化に伴う興味深い電気伝導特性が観測され、特性解析を中心に研究を進めた。特性解明によって、閾値特性に優れた短チャネル有機FETの開発が期待できる。幾つかの研究成果は論文として既に投稿しており、その他の成果についても投稿準備を進めている。 以上のことから、全般的には研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、前年度に確立した混合溶媒を用いた高移動度塗布型有機FETにおいて短チャネル領域での更なる高移動度化を図る。これまでの検討で接触抵抗の低減に大きな効果が見られた正孔注入層の製膜プロセスを最適化することで、チャネル長5 umで高い実効移動度や安定性に優れた短チャネル塗布型p型有機FETを実現する。また、短チャネル塗布型n型有機FETでの高移動度化を進めていく。塗布型有機FETを用いた回路作製プロセスを開発し、有機FET回路の動作特性を検証し、性能改善を図っていく。 前年度に開発した低分子可溶性半導体を用いた塗布型フローティングゲート有機メモリの書込時間や駆動電圧の改善を図るため、有機半導体種による光メモリ動作の違いを明らかにするとともに、新たな材料の探索や新規動作メカニズムの考案を進めていく。簡易的にメモリアレイを作製する手法を確立し、イメージセンサを作製し、動作性能を評価する。 これまでに見出している可溶性有機混合膜を用いた塗布型有機フォトトランジスタを高再現性で作製するプロセスを開発し、基礎性能を明らかにし、光感度向上に向けた材料やデバイス構造の検討を進めていく。
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