研究課題/領域番号 |
17H03240
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
粟野 博之 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40571675)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スピン軌道トルク / 電流磁壁駆動 / 磁性細線 / 希土類・遷移金属合金 / スピンホール効果 / 磁気メモリ / 磁壁移動速度 / 臨界電流密度 |
研究実績の概要 |
本研究の目標は、希土類・遷移金属合金(RE-TM)とPt等の重金属ヘテロ界面に生ずるスピンホール効果やジャロシンスキー守谷効果が界面だけでなく磁性層奥深くまで働き、磁気ボリュームの大きなスピン軌道トルク効果の起源を解明することであり、それをナノインプリントプラスチック基板上で実現し、IoTにむけたデバイス応用の基盤技術を形成することである。 バルク的なスピン軌道トルクとしては、RE-TMとしてTbFeCo合金を、重金属としてPtでヘテロ界面を作成したSiO2/TbFeCo/Pt磁性細線のバルク界面効果を調べるためにTbFeCo層とPt層の間に1原子層のTbを挿入したもの、また1原子層のFeを挿入したもの、さらに1原子層のCoを挿入した3種類の磁性細線を作成し、これらの電流磁壁駆動について検討した。これらを挿入する前のTbFeCo/Pt磁性細線では磁壁駆動が可能だが、TbやFeを1原子層挿入したものは電流磁壁駆動することが出来なかった。一方、Co層を1原子層挿入すると磁壁移動速度が大幅に向上した。ただし、磁壁駆動のための臨界電流密度が上昇した。この結果からCoとPt層のヘテロ界面が磁壁駆動に重要な役割を果たし、その磁壁駆動が厚いTbFeCo上の厚い磁壁を動かしていると考えられる(ISAMMA2017で発表)。 一方、Ptのスピンホール効果とジャロシンスキー守谷効果の符号が正反対であるTa層をSiO2側に挿入すると磁壁移動速度が向上し、かつ臨界電流密度を低減することに成功した。このように本システムは磁性膜が大きなボリュームを持つにも関わらず、極薄磁性膜にしか作用しない一般的なスピン軌道トルク効果と同じ制御方法が利用できることが確認できた。また、Co/Tb/Pt三層構造のスピントルクFMRを測定し、Tb層が0.5nm以内であればスピンホール効果を増大できることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バルク的なスピン軌道トルクとしては、RE-TMとしてTbFeCo合金を、重金属としてPtでヘテロ界面を作成したSiO2/TbFeCo/Pt磁性細線のバルク界面効果を調べるためにTbFeCo層とPt層の間に1原子層のTbを挿入したもの、また1原子層のFeを挿入したもの、さらに1原子層のCoを挿入した3種類の磁性細線を作成し、これらの電流磁壁駆動について検討した。これらを挿入する前のTbFeCo/Pt磁性細線では磁壁駆動が可能だが、TbやFeを1原子層挿入したものは電流磁壁駆動することが出来なかった。一方、Co層を1原子層挿入すると磁壁移動速度が大幅に向上した。ただし、磁壁駆動のための臨界電流密度が上昇した。この結果からCoとPt層のヘテロ界面が磁壁駆動に重要な役割を果たし、その磁壁駆動が厚いTbFeCo上の厚い磁壁を動かしていると考えられる(ISAMMA2017で報告)。 一方、Ptのスピンホール効果とジャロシンスキー守谷効果の符号が正反対であるTa層をSiO2側に挿入すると磁壁移動速度が向上し、かつ臨界電流密度を低減することに成功した。このように本システムは磁性膜が大きなボリュームを持つにも関わらず、極薄磁性膜にしか作用しない一般的なスピン軌道トルク効果と同じ制御方法が利用できることが確認できた。また、Co/Tb/Pt三層構造のスピントルクFMRを測定し、Tb層が0.5nm以内であればスピンホール効果を増大できることを見出した(INTERMAG2018で報告)。 積層膜方向に対称構造であるPt/TbCo/Pt3層膜の磁性細線を作成し、電流磁壁駆動実験を行った。一般に、対称構造では前述界面効果は打ち消すため磁壁は電子方向に動くが、本実験では電流方向に磁壁は動いた(MORIS2018で報告)。しかも、磁壁移動速度は1000m/secにも至っており、新たな現象を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
RE-TM/重金属ヘテロ界面をもつ磁性細線におけるバルクスピンホール効果の起源を探るため、希土類をGdやDyに変えた磁性細線を作り、希土類元素と電流磁壁駆動の関係をまとめてみる。更に、重金属層についてもWやIrなどを用いた、あるいは磁性層の上下面の組み合わせも変えた磁性細線を作成し、これらの電流磁壁駆動現象と電流磁壁駆動の関係性についてシステマティックな比較検討を行ってみる。 また、最近注目されている低効率とスピンホール効果の関係など別な物理的要素との関係についても確認してゆく。本件は、スパッタガス圧上昇に伴いスピンホール効果がリニアに増大するという報告であるが、ガス圧上昇に伴いコラムな成長が進んで空孔が広がるために実効的な電流密度が増大してスピンホール効果が増大した可能性も考えられ、それも明らかにする。 昨年始めたスピントルクFMRを使った実験についても材料の組み合わせや構造を変化させることでスピンホール角がどのように変化するか詳細に調べてみる。これにより電流磁壁駆動実験から得られた結果を深く考察することが出来るようになる。 さて、これら電流磁壁駆動にはパルス電流によるジュール熱発生の影響を考慮する必要がある。しかし、この検討はほとんど行われていない。そこで、当研究室が得意とする微小温度センサーを使って電流印加のタイミングと発熱の時間変化を調べ発熱イメージも明らかにする。これにより今まで謎だった磁性細線と熱の影響について大きな前進を目指す。また、同時に積層構造と発熱分布の結果から磁性細線の熱石器にまで発展させたい。 ナノインプリントプラスチック基板上にもこれら磁性細線を形成して、安価なIoTデバイス試作をするための実験設備拡充とそれらの準備を整える。具体的にはナノインプリント基板の溝形状や積層膜構造、磁壁動力学などを考慮した原盤作成に取り組む。
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