研究課題
MoS2やWS2など遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)の単層膜形成に関して、MoO2Cl2やWOCl4といったオキシクロライド系原料ガスを用いる独自のMOCVD技術の開発を進めてきた。2019年度は、TMDCの単結晶グレインサイズの増大を達成するブレークスルー技術を狙って様々な検討を進め、新たにアルカリ・アルミノ・シリケートガラスと呼ばれるナトリウム(Na)成分を含んだガラス基板がMoS2やWS2のグレインサイズの増大や成膜速度、膜の高品質化に極めて有効であることを確認した。アルカリ・アルミノ・シリケートガラスの軟化点は830℃付近であり、同じくNaを含む一般的なソーダライムガラスよりも約100℃高いことが特徴である。そのため、750℃付近の成膜温度でもガラス基板の変形がほとんど見られず、TMDCのMOCVD成長の基板として有用であることがわかった。特に、アルカリ・アルミノ・シリケートガラス基板上へのMoS2のMOCVD成長過程を詳しく調べたところ、Mo原料の流量や成膜時間の増大とともに微小な成長核が数μm級のグレインまで2次元成長して合体し、最終的に連続膜が得られることが確認された。さらにその後、2層目の成長開始も確認された。得られたMoS2が単分子層膜であることは、ラマンスペクトルのE12gとA1gモードの波数間隔から確認している。また、単層の連続膜からは、室温で極めて強いPL発光が観測され、膜の品質が良好であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
MoO2Cl2やWOCl4など遷移金属のオキシクロライド系原料ガスを用いるMOCVD成長法の開発が順調に進んでいることに加え、新たにアルカリ・アルミノ・シリケートガラス基板の有効性を明らかにしたことで、今後の技術開発に拍車がかかるため。
2020年度は、これまでの研究で確立してきたMoS2やWS2のMOCVD法による成長技術を組み合わせ、TMDC系の量子ナノ構造の作製技術の開発を進める。特に、これまでの研究で獲得した核形成過程に関する知見を使って、微小なTMDCの単結晶ドメインを実現するとともに、横方向や縦方向のヘテロ接合の作製を行って、その光学特性を調べる。また、レニウム(Re)の添加技術を開発し、遷移金属元素の電気陰性度の違いに基づく励起子束縛状態の形成について検討する。さらに、サファイアやGaN、LiAlO2などの単結晶基板上へのMoS2やWS2の成長を行い、基板とのエピタキシャル関係について考察し、今後の展開可能性や技術的問題点を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
The Journal of Physical Chemistry C
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Nanoscale
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