赤外吸収分光法に基づく非侵襲血糖値測定法において,光源を従来用いられてきた連続波長を発生する赤外ランプから,複数の単一波長量子カスケードレーザ(以下QCL)に置き換えたシステムの開発を行うことを目的として次の事項について検討を行った. ・複数のQCLを用いたシステムの測定精度向上の検討 前年度に構築した,グルコース分子の吸収波長のひとつである1152cm-1と,グルコース吸収が現れない波長1186cm-1の2つの波長を発生するQCLを用いた測定システムについて,その測定精度を向上させるための検討を行った.QCLを用いたシステムにおいて,繰り返し測定における測定値のばらつきが,赤外ランプを用いたフーリエ赤外分光器と比較して大きいということが判明した.その原因を調査した結果,コヒーレンシーが高いレーザ光の場合,プリズム内で干渉が生じ,プリズム面上における光電力分布が不均一になることがわかった.そこで,プリズム入射光の広がり角を拡大したり,入射角を減少させたりすることにより,干渉を抑えて不均一性を抑制することに成功した.これを用いてヒト口唇粘膜の測定を行った結果,繰り返し測定時のばらつきが大きく減少し,25回測定時に得られる吸収値の標準偏差が改善前の0.3 dBから0.1 dB以下へと大きく低減できた.さらにこのシステムを用いてヒト血糖値の推定を試みた結果,改善前は血糖値と光学吸収値に全く相関が見られなかったのに対して,改善後は相関係数R2が0.36となり,両者に相関が見られるようになった.
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