研究課題/領域番号 |
17H03251
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
高橋 一浩 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90549346)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グラフェン / 転写技術 / MEMS共振器 / 化学センサ |
研究実績の概要 |
架橋グラフェンによって形成される封止キャビティの直径の大口径化と高アスペクト化(直径/キャビティギャップ)を図るため、減圧ドライ転写プロセスの条件検討として、支持PMMA膜の薄膜化を行った。グラフェンを転写する際に加熱によってガラス転移するPMMAにより、基板と密着しているグラフェンは十分な接着力が得られるようにしつつ、PMMAの体積を小さくすることによって、狭ギャップがつぶされない条件の探索を行った。その結果、PMMAの膜厚を1umにした際に、直径40um以下の架橋グラフェンを歩留りよくを形成することに成功した。 これまでの報告では、グラフェン共振器の固有振動は高真空に排気された環境でしか観測されてこなかったため、本研究ではセンサとしての使用を目指し、大気中での振動動作の実現を目指している。真空チャンバ中で圧力を変化させたときの架橋グラフェンの固有振動数を評価し、圧力の増加に伴い振動のQ値が減少していく様子が観測された。これまでのところ、グラフェンの振動が観察可能な最大圧力は500 Paであったことから、大気圧動作に向けて振動のQ値の向上が求められる。架橋グラフェンの共振特性向上に向けて、引張歪みを印加することが有効な手段であることが報告されているため、歪みを印加するレジスト(SU-8)パターンを架橋グラフェン上に形成する構造を実現した。SU-8パターンに熱を与えることによって収縮が発生し、架橋グラフェン中に約1%の引張歪みが印加されている様子がラマン分光により観測された。 また、化学物質の検出を行う別の手法として、分子が架橋グラフェンに吸着した際に発生する応力による静的な変形を検出する手法を検討した。直径の異なる架橋グラフェン上にモデルタンパク質を吸着した際の変形量から、0.446 mN/mの表面応力が印加されている数値が算出され、定量評価が可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
架橋グラフェンによってキャビティを封止した構造を転写技術により作製する本手法は、支持膜のPMMAの流動化によって、グラフェンを加圧して基板との接着力を与える。このため、狭いキャビティを保持しながらグラフェンを架橋する提案構造の高い歩留りを得ることは困難であったが、減圧転写プロセスの条件探索により直径40ミクロン以下のサイズの形成が再現性良く得られるようになった。特に、本研究で提案するドラム構造は既報の論文で作製されていたブリッジ構造とは異なり、シリコン基板中のキャビティは転写したグラフェンにより封止されているため、通常のフォトリソグラフィによるパターン形成が可能である。この特徴を活かし、架橋グラフェンに歪みを印加することを目的としてSU-8のパターンを形成することに成功し、得られた永久歪みは既報の数値よりも一桁大きい値である。この歪みによりグラフェン共振器の共振特性が向上し、周波数分解能の改善が期待される。さらに架橋グラフェンは封止型であるため、転写後のウェットプロセスが可能である。よって本デバイスは分子選択性を与えるための化学修飾プロセスを行うことが可能であるため、高感度化学センサの実現が期待できる。H30年度に計画していた項目中で未達成であった課題として、高周波側の固有振動数の評価があったが、デバイスの形成方法と周波数向上のための要素技術などを確立することができた。 また、提案する架橋グラフェン構造は、当初計画していた吸着分子の質量を計測する共振モードとは別に、吸着した分子によって架橋グラフェンに印加される応力を計測する手法が適用できる。この応力センサは膜厚の自乗に依存して感度が向上するため、架橋グラフェンを使用することによって従来よりも単位面積当たりの感度が2000倍に向上することを新たに見出すことができた。 以上より、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
・グラフェンon CMOSの作製とオンチップ計測: 外部測定機器を用いずにICチップ上で高感度分子計測を行うことを目指し、CMOS集積回路と架橋グラフェンセンサの集積化を行う。ディテクタおよび信号処理回路を形成したCMOS集積回路上に、追加工を行ってグラフェンドラムを形成する。前年度までにCMOSディテクタの試作と動作確認は行っているため、架橋グラフェンの一体化を行い、オンチップ分子検出を実現する。 ・転写膜の密閉性およびひずみ量の向上検討: プロトタイプの試作に利用していた転写基板の再表面はシリコン酸化膜であったが、シリコン酸化膜はガスの封止性に課題があるため、減圧封止されたキャビティ内の気密性を評価する必要がある。真空キャビティの気密性評価は、大気圧中での気圧差によりサスペンデットグラフェンに印加されるひずみの経時変化を測定することにより評価ができる。測定の結果十分な長期安定性が得られない場合には、グラフェンとの密着力が強い材料として知られる、六方晶窒化ホウ素をバインダーとしてシリコン酸化膜上に用意することで気密性の向上を図る。また、エポキシ性ネガ型レジスト(SU-8)の熱収縮により与えたひずみによりグラフェンのブリッジのfQ積を評価する。ドライ転写したドラム構造とSU-8によるひずみ印加を組み合わせてfQ積の向上を目指す。 ・モデル分子の選択的検出: サスペンデットグラフェンセンサ上でモデル分子の選択的検出を行い、検出能力の評価を行う。提案する構造では、静的な変形により吸着分子を検出する表面応力測定と振動の周波数計測により吸着質量を定量化することができる。2つのモードでは質量測定モードの方が最少検出限界は優れた特性が得られると期待されるが、表面応力測定は溶液中のリアルタイム測定が可能など、耐環境性に優れているため、両者の検出能力を明らかにする。
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