研究課題/領域番号 |
17H03258
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
安永 守利 筑波大学, システム情報系, 教授 (80272178)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 伝送線 / プリント基板 / 信号品質 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本格的なIoT時代に向けて,GHz級の超高速ディジタル信号の信号品質(SI:Signal Integrity)を向上する技術が求められている.既に我々は,この問題解決に向けた新たな技術である「セグメント分割伝送線(STL:Segmental Transmission Line)」を実現している(科研費基盤研究(B)26289114).一方,STLは,配線密度の低下と微細幅配線製造という課題があった.本研究の目的は,これらの課題を解決し,さらに製造後の配線システム変更にも適応的に対応できる(適応的に波形を整形できる)伝送線を実現することである. 上記目的の達成に向けて,我々はこれまで“コンデンサ型セグメント分割伝送線(C-STL)”の基本構造を提案することができた.そしてさらに,C-STLの有効性をシミュレーションにより評価し,試作のための基本設計を終了した(H30年度).R元年度は,前年度の基本設計結果を基に基板を作成し,実測評価を行った.その結果,8GHzのEnd-to-End伝送系(PCI-e Gen3相当)において,シミュレーションとほぼ同等の信号品質改善効果(アイパターンのアイ開口幅とアイ開口高さを従来の約2倍に改善)を実証することができた. さらにR元年度は,C-STLの適用範囲を広げることができるか否かをシミュレーションと試作測定によって評価した.具体的には,伝送線の途中に容量性負荷が接続された(昨年度評価)だけではなく,誘導性の負荷が接続された伝送系についてC-STLの有効性を評価した(誘導性負荷は,電流切り替えによるノイズを発生するため,信号品質を著しく低下させることが知られている).評価の結果,C-STLは,誘導性負荷が接続された伝送系においても優れた信号品質改善効果(アイ開口幅とアイ開口高さを従来の約2倍に改善)を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R元年度は,チップコンデンサを基板内に内蔵した基板(製品化された場合にほぼ近い構造)を用いることでC-STLの有効性を実測評価し,その有効性を国内外の学会で報告することができた.特に,International Conference on Electrical Packaging 2019 において発表したC-STLに関する評価結果は,論文誌(Transactions of The Japan Institute of Electronics Packaging)への投稿を招待され,掲載された.さらに本論文は,2019年度の論文賞を受賞することができた. また,C-STLの設計手法において,昨年度提案した手法(周波数領域によるSパラメータを用いた設計手法)をさらに発展させることができた.この手法によれば,これまでの時間領域による設計時間(数時間~1日)を約1/2に低減することができる.さらに周波数領域による設計では,時間領域設計で必要となる回路シミュレータを不要とすることができる見通しを得た.回路シミュレータは高価であるため,これが不要となることで,C-STLの実用化を大きく前進させることができる. 一方,シミュレーション結果と実測結果のわずかな差異については,その原因が不明であったが,その理由が試作基板配線上のわずかな長さの垂直配線(Via-Hole)の持つ寄生素子成分であることも分かってきた.この寄生素子成分は,高周波になるほど伝送波形に影響する.今後は,寄生素子の回路モデルとその値を明らかにすることで,シミュレーションと実測の結果をさらに一致させること(高精度設計)が課題となる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となるR2年度は,これまでの成果を発展させるとともに,実用化に向けた検討を進める.C-STLの性能をさらに向上するには,前年度までに明らかになったシミュレーションと実測とのわずかな差異の原因である垂直配線(Via-Hole)の寄生素子成分をシミュレーション(設計)に組み込む必要がある.当該年度は,寄生素子成分の回路モデルを明らかにするとともに,これもSパラメータとして組み込むことで,既に着手した周波数領域(Sパラメータ)による設計手法を確立する. 周波数領域による設計の特長は,その計算時間の速さ(設計時間の短縮)の他に,時間領域での設計に不可欠である回路シミュレータが不要な点にある.回路シミュレータは高価であり,STL/C-STLの実用化とその普及の障害になると考えられていた.周波数領域による設計により,この問題点を解決できる可能性がある.現在の周波数領域における設計では,数式処理ツール(Mathmatica)を用いており,数式処理ツールも有償となる.本年度(最終年度)は,この数式処理ツールもオープンソース言語に置き換える(python等に移植する)ことで,ほぼ無償でSTL/C-STLを設計できるフレームワーク構築を目指す. これまでの成果により,R元年度から,企業との車載向け伝送系用STLの共同研究の検討もスタートした.具体的には,これまでのシングルエンド伝送系を車載に向けて差動伝送系に発展させる信号品質改善技術である.また,伝送系から放出される電磁放射の低減も開発課題となる.信号品質向上と電磁放射低減を同時に解決する,いわゆる多目的最適化については,現在使用している遺伝的アルゴリズム(最適化のための機械学習技術)を改良する必要があり,実用化推進のための課題となる.
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