研究課題/領域番号 |
17H03274
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
木寺 正平 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (00549701)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マイクロ波生体計測 / 乳がん検知 / レーダ信号処理 / 逆散乱解析 / マイクロ波癌治療 |
研究実績の概要 |
本研究は,マイクロ波UWB(Ultra Wideband)レーダにおける生体医療診断及び治療のための,従来の空間分解能・精度を超える生体内部画像化法を構築することである.平成30年度では,乳腺組織とがん組織の複素誘電率の差異を識別するため,昨年度に引き続き、Envelope法による表面形状推定を導入した逆散乱解析法(DBIM: Distorted Born Iterative Method)を,3次元問題に拡張した.3次元問題ではアンテナ素子間隔が十分小さくできないため、マルチスタティック処理を導入することで表面形状の精度を大幅に改善させた.また乳房表面を再帰的に更新することで,誘電率再現精度を改善させることを実現させた.また統計的な評価を導入し,乳腺組織とがん組織を検出率:99%かつ誤検出率20%で識別できることを確認した.また,リアルタイムマイクロ波アブレーションモニタリング法では,マイクロ波アブレーションによる導電率の変化に着目した,波形再構成法に基づくアブレーション領域推定法の3次元問題への拡張及び実験的な検証を実施した.3次元問題及び実験においても、本手法がリアルタイム性を保持しながら,領域推定精度数mm程度の高精度な推定を実現することを示した。また、S11パラメータを用いた誘電率推定法も導入し,より現実的なアブレーション領域推定を実現させた.さらに、レーダデータの機械学習を用いたがん組織識別では,自己符号化器を関送させた深層学習により,がん細胞の有無のみではなく、がん組織のサイズ(3mm, 5mm, 7mmの差異)を80%程度の識別率で識別できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では,癌細胞検出を目的とした誘電率再構成法であるDBIM法に関して,3次元問題において、精緻な乳房モデルを用いて,同手法の有効性を示し,実際問題における有効性の道筋が明らかになった。一方で,未知数が増大し、また多大な計算時間も必要であるという課題がある。これに対して、レーダ的なアプローチで関心領域を制限し,かつCSI(Contrast Source Inversion)という新たな手法を導入することで,精度と計算時間を飛躍的に低減させることができることを簡単な例で確認しており、今後同手法を導入することで上記問題は解決されると予測する.また,アブレーションに関しては,導電率の低下を考慮した波形再構成に基づく手法を3次元問題及び実験での検証までを達成することができたため,当初の予想以上の進捗であると評価する.一方で,レーダデータ学習に関しては当初予定の多偏波データによる識別の検討の進捗が思わしくなく,総合的な観点から当初の計画通りに進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度では,レーダ的手法であるRPM法とトモグラフィー的手法であるDBIMもしくはCSIによる統合処理を検討する。具体的には,レーダ的手法により関心領域を制限し,未知数を大幅に減らすことで、3次元問題における精度改善を図る.またデータ学習を用いた誘電率再構成法も検討し,最終的には上記の誘電率推定画像と併用することで,深層学習による癌識別率を改善させる.上記手法は,精緻な乳房ファントムを用いた3次元数値解析及び複数誘電率キューブを入れ替えて様々な分布を模擬できる簡易ファントムを導入した実機実験により,その誘電率再構成精度及び癌識別率を評価する.また,アブレーション領域推定法においても,逆散乱解析における誘電率分布推定を導入する.現在までの手法はアブレーション領域の境界を推定するのみであり,連続的な誘電変化を有するアブレーション状況には完全には対応していない。連続的な変化及び絶対的な複素誘電率の減少を定量的に評価するために,逆散乱解析法を導入する.上記手法も高出力アンプ及び同軸プローブによる焼灼実験により,その有用性を評価する.
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